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【行動】2006/05/27 
教育基本法改悪反対など国民的な課題が緊迫 5・27国民大集会で5万人が総決起!【講演】

【講演】三輪 定宣 千葉大学名誉教授


 

この道はいつかきた道

 みなさん、連日、ご苦労さまです。
 教育基本法改悪の強行、「この道はいつかきた道」ではないでしょうか。あの戦前の教育勅語を頂点とする完璧な教育の国家統制による国家の軍国主義化とその暴走・破滅の道です。それは、この歴史の反省から生まれた教育基本法の開いた道――教育の国家統制からの解放による平和的民主的な国家の建設の道からの決別です。
 
 アーミテージ・レポート(2000年作成のアメリカの重要な対日政策シナリオ)に見るように、アメリカは、日本の憲法改正、自衛隊の軍隊化、核保有、構造改革などを軍事力を背景に強力に迫っており、教育基本法改悪はそれらと連動する対米従属の戦争体制づくりとなりかねません。これは、戦前の教育・戦争を体験し、教育政策研究を専門とする私のいわば歴史的嗅覚、研究者としての洞察であり、多くの教育学者が共有する見方でもあります。
 
 例えば、教育学関連25学会長が、2003年、「教育基本法の見直しに対する要望」を発表しました。その一節はこう述べています。――「教育基本法は、第2次世界大戦と日本の敗戦という未曾有の惨禍のなかから、その反省に基づき制定されたものであり、地球時代にふさわしい人類普遍的理念を規定し、戦後の教育や社会の発展の大きな礎となりました。それは、時代や社会の変化を理由に、安易に改正されてはならず、これからの教育に生かすことが求められます」と。当時、私は日本教師教育学会会長として、その原案作成に参加し、各学会長の賛同を得て公表しました。「学問の自由」を尊重する学会が、これまで政府の政策に批判的見解を発表することは稀であり、25学会長の統一見解は、戦後史の奇跡というべき出来事で、教育学者一般の並々ならぬ危機感の現れです。
 

教育基本法改悪案の問題点

 さて、法案の問題点ですが、全体として、現行法の多くの文言を引き継ぐなど、国民に支持され、定着している状況を無視できず、装いをこらしているが、その本質、化粧の下に見える素顔は、軍事国家体制の再構築と一体的な教育の国家統制戦略です。
 
 その構図は、�‖茖韻法∩以犬法�反対の根強い「国を愛する態度」や「伝統」「公共の精神」などを強引に盛り込んだこと、��第2に、国家権力の教育への不当な支配の禁止、国民全体に対する教育の直接責任、教育行政の教育条件整備義務など、教育の国民主権原理を定めた教基法の真髄ともいうべき第10条を廃止すること、�B茖海法◆峩軌蕕量槁検廚両楮戮糞�定とその実施体制である国の総合施策や「教育振興基本計画」の作成を義務づけたこと、などに如実に現れています。
 法案のさまざまな追加条項の多くは現行の教育基本法その他の法律にほとんど規定されており、または、必要に応じて法令に定めれば十分であり、それらは教基法を改正する理由にはなりません。
 
 今、国の教育政策は、主要国最悪の教育予算、学級規模、学費・奨学金、または、義務教育費国庫負担制度の廃止動向など、「行政改革」「構造改革」のもとで教育の条件整備と機会均等は後退の一途をたどり、社会的格差の拡大とあいまって教育の困難は増し、政治災害の様相を呈しています。法第10条を生かし、教育条件整備に全力を傾注することが国の責任であり、それを放棄し、改悪を強行するのは本末転倒です。
 法案の要である「愛国心」規定が、「日本は天皇を中心とする神の国」と発言した森義朗前首相の主導のもとで、その私的諮問機関の教育改革国民会議(最終報告、2000年)で浮上した経緯に示されるように、戦前の反動的思想が原点となっています。
 
 ひとたび法案が成立すれば、東京都の異常な教育行政のごとく、行政当局の教育内容介入の歯止めは失われ、際限ない「不当な支配」がまかり通るでしょう。学校教育法をはじめ現行法は全面的に改変され、�狎鏝絛軌蕕料躔荵鮫瓩両紊法岼�国心」教育体制が復活・確立し、教育の「構造改革」が完成します。そうなれば、例えば、日の丸・君が代の職務による強制、教科書検定や学習指導要領の強化、侵略戦争や天皇制を美化する教科書の採択、「愛国心」の道徳教育や特別活動などによる注入や評価、自衛隊礼賛、集団訓練や子どもの懲戒や管理の強化、教職員組合の取り締まり、教師の服務規律や勤務評価の徹底、教員養成・研修統制、教育行政の中央集権化などが一挙に加速するに違いありません。
 

歴史の教訓から考える

 ここでは時間の制約から、視点を絞り、教基法改悪の本質、危険性を戦前の歴史に照らして考えます。時代の重大な分岐点において、あらためて、歴史の教訓を想起したいと思います。
 
 日本の近代公教育制度の出発点、1972年(明治5年)の「学制」の前文は、「学問は身を立るの財本」であり、「国家の為」に学問するのは「惑えるの甚だしきもの」と述べ、個人のための学問を奨励し、国家のための教育・学問を否定しました。
 しかし、教育勅語(1890年、明治23年)は、教育は、人々自らのためではなく、天皇や国家のために行うものとして原理を逆転させ、つぎのように述べています。
 ――「忠」は「我ガ国体ノ精華ニシテ教育ノ淵源」「一旦緩急レハ義勇公ニ奉ジ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スベシ」と。天皇への忠誠心こそ日本の優れた伝統、教育の根源であり、国の一大事(戦争など)には国家という「公」のために滅私奉公し、天皇と国家のため潔く自己犠牲となることが国民の務めである、という論法です。
 『国体の本義』(1937年)という文部省の教育勅語の解説書は、その意義をこう説いています。――「忠は、天皇を中心とし奉り、天皇に絶対随順する道…我を捨て私を去り…天皇の御ために身命を捧げることは、所謂自己犠牲ではなく、…国民としての真生命を発揚する所以」と。それは全教員の必読書であり、天皇のためにすすんで死ぬことが国民の生きる道であり、日頃から子どもをそのように育て、備えることが学校や教師の使命とされたのです。
 
 教育勅語の出た翌年、1891年の「小学校教則大綱」は、「徳性ノ涵養ハ教育上最モ意ヲ用フヘキナリ」「修身ハ教育ニ関スル勅語ノ旨趣ニ基ヅキ…殊ニ尊王愛国ノ志気ヲ養ハンコト」などと規定し、同年の「小学校祝日大祭日儀式規程」は、天皇・皇后の「御影」(写真)への最敬礼、天皇陛下万歳、教育勅語「奉読」「唱歌ヲ合唱」などにより「忠君愛国ノ志気ヲ涵養」することを義務づけます。日清戦争勃発の前年、1893年のいわゆる箝口令(ものを言わせない命令)により教員の政治批判・活動が禁止され、日露戦争の始まった1904年には国定教科書が全国小学校で採択されました。
 1年生が最初に出合う教科書の文章は、「テンノウヘイカバンザイ」、その次の課は「キグチコウヘイハテキノタマニアタリマシタガ、シンデモラッパヲクチカラハナシマセンデシタ」と続きます。4年生の修身教科書の第3課「靖国神社」では、「わたくしどもは陛下の御めぐみの深いことを思い、ここにまつってある人々にならって、君のため国のためつくさなければなりません」と書かれ、靖国神社は戦死を美化、推奨するシンボルとされました(1918年発行)。太平洋戦争時の低学年教科書では、「日本ヨイ国キヨイ国。世界ニ一ツノ神ノ国」などと露骨になります。戦前教育を象徴する国定教科書の大部分は、敗戦後、国際社会に通用せず、�猖賄匹蟠飢塀餃瓩箸靴道藩僂�禁止されました。私も森前首相と同年齢で、「神ノ国」教科書や”墨塗り教科書”の世代の1人です。
 
 このような教育勅語を根幹とする天皇制国家主義教育体制が、その後の日本の軍国主義・戦争国家体制構築の基盤・レール・推進力となり、内外に未曾有の戦争の惨害をもたらし、国の運命を破滅へと導くことになります。すなはち、教育勅語発布の4年後の1884・85年の日清戦争を皮切りに、1904・1905年の日露戦争、1914〜19年の第1次世界大戦(日本、中国21カ条要求、シベリア出兵など)、1931年の満州事変、37年の日中戦争、41年の太平洋戦争(アジア諸国への侵略の拡大、ハワイ真珠湾攻撃・対米英宣戦布告)へと、教育勅語制定後の半世紀は戦争一色の歴史を歩むことになるのです。
 教育勅語の制定時、為政者もそれが将来の禍根、戦争の温床となることはおそらく予測できず、目先の西洋化や自由民権思想対策のため、偏狭な国粋主義・天皇制イデオロギーの立場で作成、公布されました。戦争が、政治・経済・国際情勢をはじめ、複雑多様な要因・背景から生ずることは論をまちませんが、戦前日本の場合、教育勅語を頂点とする過剰な国家統制・超国家主義、それによる国民の価値観・思想の画一的統制が、戦争の大きな原因・条件であったことは明白な事実です。その反省から、戦争の歯止めとして現行教育基本法は制定されました。
 
 この歴史の教訓に立つならば、「愛国心」教育に収斂し、戦争への地ならしになりかねない危険な教育基本法改悪を許さず、現行法を将来に生かすことの意義は自明です。
 状況は当時と今日では大きく異なります。教育勅語制定時は、自由民権運動弾圧の一環として、「小学校教員心得」により教員に「尊王愛国」思想が義務づけられ、「小学校教員品行検定規則」にそれを欠く者の免許状没収が規定され、推定3〜4割の教員が教壇からパージされた。当時、教育勅語を批判し、その浸透を阻む主体は息の根を止められたのです。しかし、今日では、ここに結集する教職員をはじめ、日本の真の平和と自由、民主主義を支える広範な父母・国民が存在し、1世紀前とは隔世の観があります。私たちは、教育基本法改悪の危機を乗り越え、日本の子どもと教育、国の未来を守ることができると確信します。
 みなさん、力を合わせてがんばりましょう。
 
※本稿は、講演者自身が全体にわたって手を入れたものです。
 



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