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【教研】2006/08/17 
「未来をひらく教育のつどい2006」記念講演『人間再発見』

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作家 藤本 義一さん

 私は子どもの頃、作家にはなりたくなかった。小学校3年の時、先生が、不思議に思うことを書け言うので、「くつ下」と書いた。あれはくつ下じゃない。くつ中だ、と。怒られました。4年になって先生は替わり、また不思議に思うことを書けと言われた。今度は「出入口」が不思議だと書いた。出ていったもんはまた入ってくるとは限らんが、入っていったもんは必ず出て行く。だから「入出口」が正しい、と。また怒られて、戦争始まってましたから非国民と言われた。子どもいうんは、大人の考えないようなことを一生懸命考える。子どもは百人いたら百人違う。それを見つけてやらないかんと思います。
 
 小学校6年生で終戦を迎えた時に、父は神経衰弱・肺病・拒食症になって療養所に入った。ある時、父の見舞いに行くと、藁がはみ出たベッドに正座して、頭下げていた。小さな声で「子不幸してすまないなあ」。うれしかった。で、僕の頭を指さして「頭という大きな金庫に、学問という資産を入れて運用して生きていってくれ」「俺はおまえに渡す地位も、名誉も、財産もない。従っておまえには失うものは何もない」(笑)。名言だと思いましたね。
 
 卒論で、僕は日本の雇用について調べたんですな。
 まずは定年。明治34年、就業規定年限控えで55歳と決められた。明治34年の日本人の平均寿命は42.8歳。停年が55歳。今なら定年96歳ですわ(笑)。
 日本みたいなボーナスは他の国にはありませんよ。ボーナスいうんは、ほんとは基本給の中で受け取るべきもんですよ。ボーナスの分が基本給に入ってたら退職金は今の2倍くらいもらえるはずなんです。でもこういうことを労組の人たちも知らない(笑)。みんな根本を見ようとしない。小泉首相が靖国に参拝しましたね。彼の論理は明白です。いま彼に「8月15日に靖国に参拝されて、感動しました」と言ってごらんなさい。彼はニコリともしないで、「人それぞれですから」と答えますよ。これは江戸時代の一番安っぽい詐欺師の手口です。これに日本人はのせられてきたんです。
 手当も他の国にはない。手当を払う側が、働いている人をケガ人か病人だと思っている。
 
 もし教員になったら、定年もボーナスも手当もみんな自分に振りかかってくる。だから学校の先生になるのはやめました。
 そして本を読みはじめた。まずラジオドラマのシナリオからはじめて、映画監督についてシナリオを書いた。50年間で原稿用紙21万枚。重さにすると1.5トンなんだそうです。20代の頃なんか3、4時間寝れば十分だった。今の若い人はそういうものを持とうとしない。それですぐ、だるいとか、あきらめたなんて言う。私は今もいろんな取材に行きますよ。それはなにかを発見したいと思うからです。
 
 家の中で会話を持つことは大切なんです。言葉には3種類ある。事実・虚構・嘘。
 子どもに、どうして結婚したのって聞かれたらなんて答えます。嘘つく人が一番多い。「仕方なかった」とか。事実を言う人もいる。「おばあちゃんがあの男は出世するって言うから結婚したんだけど当てが外れた」とか(笑)。物語作ったらいいんです。それが虚構なんです。子どもの顔をじっと見て「おまえみたいな坊やが欲しかったからだ」って。1年に2回ぐらいこういうことを言ってやるとこどもは幸せでいられる。何でも褒めたらダメですよ、6カ月に1度くらいでちょうどいい。
 
 この他に禁句というのもある。「つかれた」。こんなこと言わなくていいじゃないですか。こんなこと言うと家族みんなが疲れてしまう。
 会話には、虚構があるということを覚えてたらいいと思います。さあ、これから皆さんが家に帰って、家族の前ではじめに何を話すかで、あなたのランクが決まってくるということですな。  
 

※本稿は、講演中に取ったメモをもとに書き起こしたものです。従って内容についての責任は藤本さんにはありません。(速報「たまっこ」より)



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