全教 全日本教職員組合 憲法と教育基本法を生かす学校と教育を
HOME
全教紹介
This is Zenkyo
全教最新情報
>活動報告
>声明・見解・談話・要求書など
>専門部の活動報告
ピックアップ
刊行物案内
障害児教育
青年教職員
全教共済
資料室
リンク集

 

【行動】2006/07/12 
少人数学級や教育条件、私学助成拡充めざして 3000万署名スタート集会【講演� �

【講演】三輪 定宣 帝京平成大学教授、千葉大学名誉教授

教育費・教育予算と学費無償化

 

1.教育基本法「改正」動向と教育「構造改革」

(1)教育基本法「改正」動向と教育条件
 継続審議となった教育基本法「改正」法案は、「愛国心」教育を中心とする国の教育内容統制と国・教育行政の教育条件整備の責任放棄が表と裏の関係にある。「国を愛する態度」など多くの「教育の目標」を盛り込んだ第2条の新設と、現行法の真髄―10条の解体にその本質が露呈している。
 教育基本法は、教育条件を固有の教育的価値とみなし、教育行政が内容統制ではなく、条件整備を通じて教育の発展に寄与すべきことを方向づけた。
 しかし、政府は、戦後、初期の改革期を除き、教育条件整備に消極的であり、その帰結として、主要国中、最悪の学級規模、学費・教育費負担、奨学金、教育予算など教育条件の劣化が国際的に際立つにいたった。それは、基本法の形骸化政策の結果であり、今回の「改正」は、その正当化・総仕上げ、教育の「構造改革」体制の構築にほかならない。
 これに対し、3000万署名運動は、政府の不作為を追究する真に「教育基本法を守り生かす」運動であった。教育基本法・戦後教育の戦後最大の危機にあって、この運動の意義があらためて注目される必要がある。
 
(2)教育「構造改革」の展開
 小泉政治・「構造改革」が、アメリカの対日シナリオ(例:�爛◆璽潺董璽検Ε譽檗璽鉢瓧娃闇�11月:日本の改憲、自衛隊軍隊化、核保有、構造改革、リストラ政策など)に沿って進行している。教育基本法「改正」動向もこれと一対である。
 政府は、積年の経済財政政策の失敗による国家破産的財政危機(国・地方1000兆円の債務残高{国827兆円、地方170兆円、06年3月。国だけで毎年50兆増加}、06年度予算;歳入79.7兆円、税収45.9兆円)のもとで、国民生活関連の支出削減、負担増の強行が目論まれている。7月7日、経済財政諮問会議と臨時閣議が決定した「骨太の方針2006」は、2011年度までに公務員人件費2.6兆円を含む最大14.3兆円の歳出削減を盛り込んだ。
 前国会で強行採決された行政改革推進法は、公務員、特に教員を狙い打ちしたもので、「総人件費改革」と称し、公務員の人件費の対GDP比半減、4年間(07〜10年度)の公務員定数削減:国家5%以上、地方4.6%以上、教職員の標準法定数の児童生徒減少以上の削減、第8次定数改善計画見送り、人確法の「廃止を含めた見直し」を含む教員給与の2006年度中の結論、2008年度の「必要な措置」(成績主義給与の導入など)その他を規定している。05年度の教員総数115万人の4.6%は5.3万人、公立学校教員83.6万人の4.6%は3.8%であり、本年度予算から国・自治体の大規模なリストラが動き出す。教職員削減の手段として学校統廃合が全国的に強行されている(例:00〜05年度、小学校は毎年平均197校減少、それ以前20年間平均42校減)。
 「三位一体改革」では、義務教育費国庫負担制度見直しで、国庫補助金は06年度、2分の1から3分の1になり、削減分を所得譲与税で移譲しても39道府県で収入不足、しかも、地方交付税も引き下げられる(2006〜11年度16兆を10兆円に削減)。
 少人数学級は近年、広がりをみせ、06年度、東京都を除き実施されているが、「40人学級」を下回る自治体の基準はごく部分的であり、人件費大幅カットのもとで、非常勤講師(小学校は1994〜2004年度間3.4倍増)の乱用等で対応されているが、その前進も「構造改革」下で阻まれる。 
 

2.2006年問題と無償教育の意義

(1)国際人権規約と2006年問題
 今年は「2006年問題」が焦点となっている。1966年、国連は人類普遍的人権として、国際人権規約13条(教育への権利)に:「教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向…この権利の完全な実現を達成するため、次ぎのことを認める。(a)初等教育…(b)中等教育…(c)高等教育…無償教育の漸進的な導入…(e)すべての段階の学校制度の発展を積極的に追究し、適当な奨学金の設立及び教職員の物質的条件を不断に改善すること」と明記した。1979年、日本政府もこれを批准し、2006年現在、批准国は151カ国にのぼるが、日本政府は13条2項(b)(c)は国情に合わないとして、ルワンダ、マダガスカルと並んで留保しつづけ今日に至っている。
 1989年、子どもの権利条約28条(教育への権利)は:「教育についてのすべての子どもの権利を認め…この権利を達成するため、特に…中等教育…無償教育の導入…の措置をとる」、29条「教育の目的…子どもの人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること」などと規定する(1994年、日本158番目に批准)。
 さらに、1998年、国連のユネスコは、「21世紀に向けての高等教育世界宣言ー展望と行動ー」において、「教育は21世紀の最優先事項」(予備案)との観点から、21世紀は「グローバルな知識社会」であり、「教育は、人権、民主主義、持続可能な開発及び平和の基本的な柱であり、したがって生涯を通じてすべての者が利用できるようにすべきである。」とのべ、人権条約の無償教育の実施を求めている。
 このように、国際条約は、「教育への権利」の保障による「人格の完成と尊厳」の実現のため、公教育、その根幹の学校制度の発展とあらゆる段階の無償教育、奨学制度の拡充、教職員の物質的条件(教育条件)の改善を謳い、各国は、その規定・精神に沿って教育人権の確立に努力している。
 「2006年問題」とは、A規約13条(b)(c)―中等・高等教育の無償教育の漸進的導入―を留保し続ける日本政府に対し、国連の委員会が、5年前の2001年8月に2006年6月30日までに、留保撤回の検討を迫った問題である。「国際人権A規約第13条の会」(通称「13条の会」、三輪さんも共同代表のひとり)も結成され、各界がその実施を求め、国政では、民主党もマニフェストに盛り込むなど、世論は大きくひろがっているが、日本政府はこれを拒否し続け、すでに期限が過ぎている。しかし、国連は留保撤回要求を放棄することはありえないし、国内ではこれを契機に運動をさらに大きく盛り上げる必要がある。3000万署名は、まさにその中心舞台である。
 「2006年問題」では、中等・高等教育の無償化が注目されているが、13条は、その他に初等教育の無償教育、学校制度の発展、奨学金制度の確立、教職員の物質的条件の不断の改善を規定している。特に14条は、無償の初等義務教育についてに実施義務を定め、社会権委員会の「意見」は、「無償」の範囲を授業料などの「直接の費用」のほか、「間接的な費用」や制服代にも適用している。
 日本では、「間接的な費用」は、義務教育でも有償、高額であり、就学援助制度により低所得者が例外的に無償とされているにすぎない。義務教育にとどまらず、中等・高等教育を含め、「間接的な費用」の徴収は条約違反であり、その無償化と生活費を含む奨学制度の拡充は条約上の政府の法的義務であることを確認し、その実現を迫る必要がある。
 また、13条は、学校制度の発展とそれを担う教職員の物質的条件の不断の改善を各国政府の義務としている。日本では、教職員の物質的条件の根幹である「40人学級」が義務制1991年度、高校98年度に完成してから改善がすすまず、10数年間、政府は条約不履行である。国際条約との関係で、あらためて少人数学級の実現を迫る必要がある。
 「2006年問題」に即した教育費政策では、次の事項の実現が課題となる。
�〇箜惱�成の拡充―当面、国庫補助率2分の1の早期実現―
 私立学校振興助成法が1976年度施行され30年が経過する。同法は、教育・研究の「経常的経費について、その2分の1以内を補助することができる」(4条)と規定しているが、立法当時の国会付帯決議(参議院文教委員会、1975年7月1日)に「できるだけ速やかに2分の1とするよう努めること」と明記されていた。補助率2分の1の早期達成に続き、100%をめざして引き上げるべきである。
�∋箜悗猟樟槓篏�の拡大
��就学援助・授業料減免・奨学金制度、教育扶助、児童福祉関係手当の拡充。
�す餮�立高校・大学の学費引き下げ(地方交付税拡充、国立大学の運営交付金増額など)。
�コ惺残Ъ�金などの父母負担軽減・廃止。
�Α峩軌虔歉禊霆燹彑瀋蠅半�学金制度の拡充(別掲)

3.人類史における無償教育の展開

(1)人類史における無償教育
 人類700万年の歴史の99.9%(699万年)以上は、無償の教育の歴史。教育は人間が人間の予備軍を人間に発達させる、人類という動物にのみ特殊ないとなみで、その教育は共同体の無償の行為ー損得を超え、どの子にもわけへだてなく愛情や知恵を注じ、困難な子育てを可能とし、無償教育が人類を進化させてきた。
 1万年ほど前にはじまる文明、特に貨幣経済、資本主義の発達とともに、社会の階級・階層分化と相俟って、教育は貨幣に支配され、無償はしだいに有償の関係に転換し、家族、親子などの狭い私的関係に変質する。19世紀初頭、産業革命を境に公教育という学校中心の教育制度が発達し、無償教育運動を背景に、初等義務教育から無償制が広がるが、中等・高等教育の機会は家庭の経済力に左右されてきた。1966年、国連総会が採択した国際人権規約のあらゆる段階の教育の無償制の規定は、階級や国家の枠を超え、人類普遍の基本的人権としてそれが確立したことを意味するが、それは有償の教育を無償の教育にふたたび転換させ、これからさき何万年もの未来に向かう人類の存亡にかかわる軌道修正であった。その流れを生み出した内外の「無償教育運動」の軌跡を振り返る。
 
(2)日本
 日本では、江戸時代の寺子屋の普及は、世界最高水準の教育の大衆化といわれるが、学問は商になじまず、授業料は感謝の印、謝礼であった。師匠に武士が多かったが、「武士道は、無償、無報酬で行われる実践のみを信じた。価値ではかれないほど貴い」と考えられた(新渡戸稲造『武士道』1898年)。
 明治維新後の1872年(明治5年)、「学制」が制定され、欧米に倣い近代学校制度が成立したが、財政制度が未整備で「受業料」という私費負担原則が規定された。小学校授業料の無償制は、1900年、「小学校令」に4年制義務教育は「授業料ヲ徴収スルコトヲ得ズ」と定められたが、中等学校以上は高額な学費で教育の機会は極限された(中学校、高等女学校とも5%以下)。
 しかし、無償教育の主張は強まり、例えば、社会民主党宣言(1901年、明治34年)は:「人々をして平等に教育を受けしめざるべからず…義務教育の年限を少なくとも満20歳までとなし、全く公費をもって学齢の青年を教育」、最初の教員組合、啓明会(1919年、大正8年)「教育改造の4綱領」:「教育を受くる権利―学習権―は人間権利の一部なり。…教育の機会均等を徹底せしむべく、小学より大学に至るまでの公費教育ー(1)無月謝、(2)学用品の公給、(3)最低生活費の保障ーの実現を期す。」ー説明では「教育費は国庫負担とす」「大学は…自由講座は、年齢、性、職業、予備教育の如何を問わず、一般人に開放す」などを含む。日本教育労働組合の運動方針(1930年):「授業料の廃止」「国庫に依る遠足、修学旅行費等の全額支給」
 戦後、日本国憲法26条は:「すべて国民は、…ひとしく教育を受ける権利を有する。…義務教育は、これを無償とする」と規定。義務教育の範囲は、法律で後に高校・大学まで引き上げることができ、時代とともに、実体が準義務教育になれば、準無償制に近づけるべきことを規定している。これを受け、教育基本法3条(1947年)は、「経済的地位によって、教育上差別されない。…経済的理由によって修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない」と述べ、憲法の平等条項にもない経済的地位による差別の禁止を盛り込み、事実上、学費無償を規定する。
 
(3)世界
 世界史では、トマス・モア『ユートピア』(1515年)が:「精神の自由な活動と教養こそ人生の最高の幸福」との立場から、すべての者がそれを享受できる理想社会(ユートピア)を描き、後に「空想的社会主義」の始祖といわれる。
 フランス革命期の国民教育法案(1793年)は、子どもは家庭とともに共和国に所属するとの主張を基礎に、「すべての子どものは共和国の費用でそだてられる。…すべての子どもは教育を受ける権利を有する」とのべ、同じフランスの2月革命の憲法草案(1948年)では;「教育を受ける権利は…無償の教育を通じて、各自の肉体的・精神的・知的能力を全面的に発達させる権利」であり、労働権と不可分であると規定する。そこには「科学的社会主義」の創始者とされる1848年のマルクス・エンゲルス『共産党宣言』の思想「すべての子どもの公共的無償教育」が反映。1966年の国連の国際人権規約13条はその集約である。
 
(4)教育的意義
 無償教育の思想は、教育を真に教育にするための教育条件として成立してきた。そこでは、社会の�猜��瓩箸靴討了劼匹盍僂卜�ち、基本的人権・幸福追求権としての教育の機会均等を国家の義務とし、個人の人格的尊厳と精神の自由、人格の完成(全面的発達)がめざされ、教育が労働の権利と一体的に認識されている。そこには、すべての人が教育費を負担し、子ども・若い世代の教育に参加・共同し、責任をもつこと、そのもとで、教育・学習の私的利益化・打算化・営利化を抑制し、その社会的自覚と成果の社会への還元、無償行為能力の形成を促すなど、人格の完成のための基幹的教育条件の意味が含まれる。さらに、無償教育による“無償社会"(行動の主要な動機が、打算や営利ではなく、人々への奉仕や貢献となる社会)という未来社会実現のステップ、展望も含まれる。
 

4.諸外国の教育費負担と教育財政
 
5.日本の教育費負担
 
6.高すぎる教育費負担の弊害
 
7.学費無償化の展望と方法


 
 




▲ページトップへ

〒102-0084 東京都千代田区二番町12-1 全国教育文化会館3階 TEL: FAX:
Copyright(c)2005 全日本教職員組合 All rights reserved.