埼玉県高等学校教職員組合:『教育基本法の改悪強行に強く抗議する』(声明)
2006年12月15日 埼玉県高等学校教職員組合(埼高教) 中央執行委員会
自民・公明両党は、12月14日に参議院教育基本法特別委員会で、翌15日には参議院本会議で教育基本法改悪法案の採決を強行しました。委員会では、締めくくり質疑も行わずに、与党議員が採決の動議を発声、委員長席に詰め寄る野党議員の「採決反対」の叫び声を無視して、中曽根委員長は一方的に質疑を打切って採決を強行、「多数と認めます」と宣言しました。参議院本会議での採決の結果は、賛成131票、反対99票でした。衆議院での与党単独による強行採決に続いて、こうした議会制民主主義のルールを踏みにじって悪法を成立させたことに対し、怒りを込めて強く抗議するものです。
また、最も理解と納得が求められるべき教育の根本法であり、「教育の憲法」とよばれ、日本国憲法の「理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」と高らかに謳った教育基本法を、このような議席の数の力で強行したことは、日本の教育の歴史に重大な汚点を刻んだと言わざるをえません。
しかも、私たちの運動の広がりの中で、改悪法案の様々な問題点が明らかにされ、広範な国民の声と世論は、慎重で徹底的な審議を求めるものでした。とりわけ臨時国会終盤を迎えて、こうした声は日に日に高まっていました。11月28日付「日経新聞」の世論調査によれば、今国会で成立させるべきだとの回答は19%、今国会にこだわらず慎重に審議をとの回答が55%に及んでいました。にもかかわらず政府・与党は、最後までなぜ「改定」するのかその理由さえ説明することなく、審議を打切って強引に成立させたことは絶対に許すことはできません。
さらに、いじめ自殺問題や高校必修科目未履修問題など、子どもと教育に関わる緊急課題こそ、国会は十分な時間を取って真剣に議論すべきだったはずです。また、文科省自身が直接関わって、タウンミーティングで「やらせ質問」を仕組み、世論誘導を行っていたという問題は、法案提出者としての資格を問われる重大問題でした。しかし、政府は国会閉会日の前日の午後になってやっと「最終報告書」なるものを提出しただけで、真相も責任の所在も明らかにされませんでした。
政府の改悪教育基本法は2つの重大な問題を持っています。1つは、人間の内心に属する「愛国心」など20にのぼる徳目を法律に書き込み、子どもと国民に強制するという憲法19条の思想・良心の自由に違反する法律であるという点です。もう1つは、「国民全体に対し直接に責任を負って」行われるべき教育を、「法律に定めるところにより行われる」として、国家が法律の名のもとに無制限に教育に介入し、教育の自主性と自由を奪う法律であるという点です。
委員会審議の中で、安倍首相自身「国を愛する心情について内心に入り込んで評価するということは、これは当然ない」(10月30日)と答弁せざるをえませんでした。また、伊吹文科相は「『論理的には教育行政機関が行う行政でも不当な支配にあたる場合もありうる』と最高裁は判示しております」(12月5日)と、1976年の旭川学力テスト最高裁判決の核心部分を認めました。「国政上の意思決定はさまざまな政治的要因によって左右されるものであるから、教育内容への国家的な介入は、できるだけ抑制的であることが要請される」と教育の自主性と自由を判示した最高裁判決は、教育基本法10条だけでなく、憲法13条の国民の幸福追求権、19条の思想・良心の自由、23条の学問の自由、26条の国民の教育権などから導き出されたものです。
改悪教育基本法が二重、三重に日本国憲法に背反していることは明らかです。教育基本法を改悪しても、憲法の制約から逃れることはできません。私たちの今後のたたかいの立脚点は、日本国憲法そのものにあることを改めて確認し、改悪法の具体化と教育現場への押しつけを許さない運動をすすめていきましょう。
同時に、教育は「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」とした部分を改悪法は削除しました。しかし、教育という営みが子ども・父母・国民に直接責任を負う関係の中ですすめられることは、たとえ法律が改悪されても、日々私たちが行っている教育活動の条理でありその本質に根ざしたものです。その意味で、私たちが子ども・父母・国民とともに信頼と共同の教育をつくりあげることこそ、改悪法の現場への押しつけを許さないもう一つの立脚点です。
埼高教は、この間、教育基本法の改悪に反対するまさに歴史的なたたかいを展開してきました。改悪法案提出前から、県内駅頭での8時間リレートーク、全教職員を対象にした署名活動、2005年3月の1万人大集会へ700名の参加、法案が国会に上程されて以降は、毎週のように開催された中央集会に毎回200名にのぼる組合員が参加し、集会成功のために大きく貢献しました。
また、6月9日、11月9日、12月9日には、埼労連に結集する地域の労働組合や新日本婦人の会など多くの民主団体と共同して、県内全駅規模の駅頭宣伝行動にとりくみ、埼高教組合員が自らマイクをにぎって教育基本法改悪法案の廃案を訴えました。また、「憲法・教育基本法の改悪を許さない埼玉のつどい」に集まる幅広い市民団体とも連帯して、5回にわたる集会を成功させました。こうしたとりくみの中で、組織の違いを超えて連帯が深まるとともに、広く県民的なレベルで教育と教育基本法が語られました。この貴重なとりくみの成果は、憲法改悪を許さない運動にとっても、改悪法の押しつけを許さない運動にとっても、とりわけ「参加と共同の学校づくり」をすすめるうえでも、きわめて重要なものになることは間違いありません。
改悪教育基本法の教育現場への押しつけは、一人ひとりの子どものすこやかな成長と発達を願う父母・国民との矛盾を深め、必ず破綻に追い込まれるでしょう。埼高教は、父母・県民とともに改悪法の具体化と学校現場への押しつけを許さないたたかいを新たな決意をもってすすめることを表明します。
【添付ファイル】
▲ページトップへ
|