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【報告】2006/04/27
『全教からの追加情報』(教員の地位に関する勧告の適用に関するILO・ユネスコ共同専門家委員会 宛)�◆殖�
2006年 4月27日
教員の地位に関する勧告の適用に関する
ILO・ユネスコ共同専門家委員会 御中
全日本教職員組合
中央執行委員長 石元 巌
全教からの追加情報
はじめに
1.CEARTの「中間報告」(06年1月)について
2.教職員評価をめぐる最近の情勢と課題
3.「指導力不足」教員認定制度の運用の問題点
(1)文部科学省の実態調査
文部科学省が公表した、2004年度における「指導力不足」教員認定制度の概況は、次のとおりです。
「指導力不足」教員の認定数は566人で、前年度より85人増えて過去最多となりました。認定された教員のうち、免職は12人、休職の分限処分は21人が受け、99人が依願退職しました。研修を受講した教員のうちで、職場復帰できたものは127人で、33・7%に過ぎません。また教員以外に転職した者は、1名でした。
さらに重大なのは、新しく採用された教員が正式採用されない問題です。教員の条件付採用制度(期間1年間)は以前からありましたが、「指導力不足」教員制度が始まってから、不採用及び依願退職者が急増しています。04年度は、全採用者1万9565名中、不採用7名、依願退職者172人となっています。
「指導力不足教員」認定制度における「本人からの意見聴取」について、文科省の報告は「指導力不足教員の対象となる教員本人からの意見聴取の手続きについては、全ての教育委員会において設けられている」となっています。しかし、例えば、千葉県教育委員会の「特別に指導力の向上を要する教員の取り扱いに関する要綱」では、「(判定会の)委員長は、必要があると認めるときは、判定対象教員又は特別研修教員に意見を述べる機会を与えることができるものとする」となっており、「本人が意見表明できるかどうかの判断は、判定会の委員長に任されており、さらに、本人が孤立した中で短時間の意見表明しか与えられていない」と当該組織から報告されています。
※(資料3)「指導力不足教員(認定前を含む)のうち退職等した者の推移」「条件附採用の結果について」はPDF版を参照ください。PDF版URLはこのページの最後に表記しています。
(2)効果があがらないのは、処方箋が誤っているから
「指導力不足教員」認定制度が導入されてからも、教職員の病気休職者とその中の精神疾患者の割合は増え続け(資料4参照)、「指導力不足教員」の認定者数が減少しないのは、クラスサイズの縮小、持ち時数の軽減など条件整備の改善が伴っておらず、「指導力不足教員」認定制度が教員の力量向上を目的とした本人サポートではなく、「指導力不足教員」の摘発・排除をねらいとしているからです。そして、ILO・ユネスコ勧告が求める水準の客観性・透明性など「適正手続き」を確立していないからです。
また、条件附採用期間の不採用・依願退職が急増している背景は、新採者は初任者研修制度による重い負担があり、また多忙化の中で新採用者を援助する余裕が学校職場では減少してきており、しかも、文科省が条件附採用期間の「厳正な運用」を求め、教育行政・管理職が、時間をかけて育成するのではなく、「最初から一人前の働き」を要求して、新採者を精神的に追い込んでいるからです。赴任してわずか3週間で、勤務校の教室で自殺した埼玉県の小学校教師の衝撃的な事件はマスコミでも取り上げられています。
「学校現場の苦悩を映す」と題した社説で京都新聞は、学校現場のしんどい現実として、後を絶たない校内暴力や非行、いじめや授業妨害、多岐にわたる父母、子どもの願いや希望、迷走する教育行政、雑務の多さなどを挙げて、「こうした状況に疲れ果て、ストレスをため込んだり、指導力に自身をなくしたりする教師が増える。その結果「心の病」が広がっていく。そうだとすれば、学校現場の苦悩を告げる『黄信号』にほかならない。」(06年1月11日付)と論評しています。
朝日新聞(05年4月3日付)は、「指導力不足」教員認定制度をめぐって訴訟が起きていることを取り上げ、「判定の公平性課題」との記事を掲載しました。その中で、「国際労働機関(ILO)から『手続の公開性と透明性が欠け、再審や抗議の機会が設けられていない』と注文がつくなど課題もある」と指摘しました。これは、全教の申し立て(ALLEGATION)を受けて2003年12月に出されたILO・ユネスコ「教員の地位勧告」共同専門家委員会の「勧告」(「CEART勧告」)に基づくものです。
※(資料4)「教職員病気休職者における精神性疾患による休職者数の推移」はPDF版を参照ください。PDF版URLはこのページの最後に表記しています。
(3)納得できないとする、相次ぐ訴訟
「指導力不足教員」認定及び研修に係る訴訟について、手続き問題を中心に紹介します。
○04年10月に、兵庫県の「指導力向上を要する教員にかかるフォローアップシステム」の恣意的な運用で研修命令を受けた高校教員が、処分取り消しと名誉回復を求めて提訴しました。校長からの報告書の開示を求めても拒まれたため、個人情報保護条例に基づいて公開請求を行いましたが、対象となったのは判定委員会の日時と出席した県教委事務局のメンバー氏名および本人・関係者から意見聴取の記録の一部のみで、校長の報告書は「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるため」との理由で非開示となっていました。しかし、裁判では証拠として開示されました。結審の前に職場復帰が実現したので、提訴は取り下げられました。
○静岡県の公立高校教員は06年1月に、誤った実態把握によって「指導力不足教員」と認定されたとして、研修命令の取り消しを求める行政訴訟を起こしました。この事案で静岡県弁護士会は05年8月に、人権救済申し立てに基づき、実態把握記録簿の客観性を高めることや審査委員会で対象教員が意見陳述する際に代理人や補佐人の同席を認めることなどを県教委に勧告しています。
弁護士会の勧告内容はCEART勧告に沿うものであり、静岡県教育委員会は05年度から「実態把握記録簿」の事実関係記録の事実関係の部分について、校長が申請前に本人に開示して確認するよう改めています。
○京都市教委は05年4月に、新採用1年目の教員に対して「分限免職処分」を強行しました。しかし、本人に教員として不適格であるとの納得できる説明がなされておらず、05年5月に処分撤回を求めて提訴を行いました。裁判の中で原告は、「教育委員会の主張は極めて主観的評価に基いたものであり、客観性に乏しく誇張・歪曲が見られる」「適格性の判断についての総合的評価はさていない」などと反論しています。
○神奈川県では、地方裁判所の判決は、当該職員の説明や反論を聞くことは望ましいものであることを認めながら、事前に聴取する法的義務はないとして、教員の訴えを退けました。教員は、控訴していますが、このような判決がでるからこそ、適正な手続きを制度で明確にすることが求められています。
4.「教員の地位勧告」の遵守に向けて、重ねて文科省への働きかけを要請します
03年9月に開催されたCEART第8回会議における検討結果に基づいて、03年12月に文部科学省と全教に、「指導力不足教員」政策と新教職員評価問題に関する勧告が届けられてから3年目を迎えました。私たちは、CEART勧告と中間報告を力に『教員の地位勧告』を日本の教育行政に活かす取り組みを強化してきましたが、今年の9月には第9回CEART会議が予定されているにもかかわらず、文科省は、ILO・ユネスコ「教員の地位勧告」を尊重する政策転換を行っていません。そのため、各教育委員会における見直しは遅々とした歩みで、初歩的部分的改善にとどまっています。
「指導力不足教員」認定制度の目的は、研修の機会を保障し、教員の力量向上を図ると言われてきました。しかし「指導力不足教員」認定数は減るどころか増加し、CEART勧告レベルの手続きにかかわる「透明性」確保が避けられない課題であることが、ますます明らかになってきています。
教職員評価制度についても、全国に先駆けて評価結果と賃金・処遇を直接的に連動させた東京都で、その弊害が目立ってきています。そして、国の動向を受けて、他の道府県においても、評価結果を査定昇給など業績主義賃金に反映させる動きが強まっています。『教員の地位勧告』が要請する、導入にあたっての労使協議、評価の客観性の担保、本人開示や不服申し立てなどの保障は、絶対に欠かせない要件と言わなければなりません。
このような情勢の中で、CEART「中間報告」が、『教員の地位勧告』に基づき「すべての教員に対する適切な手続きや方法が一貫した方法で採用され、適用される手段についてのガイダンスの提供に文科省が関与することが、このプロセスを容易ならしめることは間違いない」との見解を表明されましたが、私たちは心から歓迎し支持するものです。
文科省はすでにCEARTに提出した文書で「改善を可能な限り公正かつ透明性の高いものにするため、あらゆる努力を惜しまない」と表明しています。CEART勧告では「共同専門家委員会は現時点で詳細な事実関係に関する争いの解決を図ることを提起しない。むしろまず勧告の原則に関する重要な問題をとりあげて共同専門家委員会は検討したい。この勧告の原則に関する問題の解決は将来的には個別事例の解決にも役立つべきものである」(13項)と意見が述べられました。全教は今日に至るも、「勧告の原則」問題が解決されておらず、懸案事項である考えています。
つきましては、下記の内容で、日本政府・文部科学省に引き続き働きかけてくださることを重ねて要請します。
� (孤�科学省が、CEART勧告に基づき、「教員の地位勧告」(1966年、1997年)を尊重して、教育行政をすすめること。
�◆ 峪愼確鷲埖�教員」制度の全国の実態調査を分析し、「教員の地位勧告」「CEART勧告」に沿った、見直し改善のガイダンスを都道府県教育委員会・政令市教育委員会に示すこと。
�� 「新たな教員評価制度の導入と実施」に関して、「教員の地位勧告」「CEAR勧告」が求める水準の客観性、透明性、公正を確保するガイダンスを示すこと。労使交渉抜きで、評価結果と賃金・処遇との連動を行わないこと。
�ぁ。娃廓�CEART勧告、05年『中間報告』の内容を文科省が各地方教育委員会に伝達し、尊重すべきことを明らかにするとともに、制度の見直し改善に向けて、各地で関係する教職員組合との建設的な交渉・協議がもたれること。
また、制度の見直し改善に向けて、全教としてILO・ユネスコの専門的助言を得たいので、調査団の派遣を検討されることを要請します。
以上
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