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『未来をひらく教育のつどい2006』 第10〜12分科会
◆第10分科会 家庭科教育 ※文中の括弧半角数字は分会ごとのレポート番号
1 今年度分科会の課題
教育基本法改悪法案との関係で、これからいっそう「競争と管理」の強化と教育における新たな格差づくりが問題とされてきます。その中で、学習指導要領改訂の方向をうけ、家庭科教育もますます厳しい現状をむかえてきています。
小泉内閣のもとで知育、徳育、体育、に加えて食育が強調され、2005年4月から栄養教諭制度が始まりました。食教育を担ってきた家庭科ではどのように対応していくかが課題になっています。また合計特殊出生率の低下がつづき、家庭科には少子高齢化社会への対応が期待されていますが、それが伝統的家族への回帰にならないように、次世代育成の新たな方向を子どもたちと構想していくことが求められます。さらに高度情報消費社会の進展のなかで、家族関係をはじめさまざまな生活スタイルは急激な変化をみせています。
このような社会状況をふまえて、本教研集会では、子どもたちの生活課題に沿った家庭科教育のあり方について検討を深めたいと考えます。
2 今年度のレポートの動向
今年度のレポートは、小学校3本、中学校1本、高等学校2本、出版労連1本の計7本です。内容別では、食領域3本、保育領域1本、全領域1本、その他(総合学習)1本、教科書問題1本です。困難な教育情勢のなかで出されたこれらのレポートを有意義に検討し、また各地域教研で出されたことを交流して、討論していきたいと考えています。
3 討論の柱と内容
第1日目(午前)
共同研究者・司会者の紹介、参加者の簡単な自己紹介の後、基調報告において、家庭科をめぐる情勢や課題と討論の柱について提案します。
第1日目(午後)
(1)小・中・高「家庭科の学びをつくるために」
(1)と(2)と(3)の報告をもとに、衣食住の暮らしに目を向けることのできる役に立つ実習を取り入れた実践、加工食品の学習と食の安全についてや、食生活の自立をめざした実践を例として、小・中・高における家庭科の学びのあり方について考えます。
第2日目(午前)
(2)中・高における選択の時間とのかかわりから
(4)と(5)の報告を受け、時間数が減少している中で、選択の時間を利用した家庭科の学びのあり方について検討します。
第2日目(午後)
(3)総合的な学習の時間とのかかわりから
(6)の報告を受け、家庭科の時間数が減少している中で、総合的な学習の時間を活用して家庭科の総合性を生かした学習のあり方について議論します。
(4)教科書問題
(7)の報告をもとにジェンダーフリー教育と家庭科教科書への攻撃の実態を、憲法24条と9条の改正案などの動向を踏まえて明らかにします。これらの攻撃は不当であるのみならず、共学家庭科の根幹を揺るがすものです。男女平等の視点から家庭科のあり方と重要性について再確認したいと考えます。。
◎食生活のコーディネイトを!
2日目のトップバッターは、傘寿(!)を迎える教師大先輩、埼玉の榎本さん。これまで教えてきたことを実践し自ら検証する食生活。よく利用する食材を示しながら、病院での療養後、高齢者施設での食物への要望活動を通じ、自分のみならず入所者全体の食生活改善にも尽力し続けています。参加者から大きな拍手!
続いて長野のレポートの「SUPER SIZE ME にはなりたくない!」。3年選択フードデザインの授業実践。全・定両課程で米映画(監督自ら被験者として1日3食、1カ月マックを食べ続けた過程の記録)を教材として利用して食生活を考える。そして実際にハンバーグの調理をして手作り品と販売品との比較、さらに手芸要素のランチョンマット・スプーンレストの製作をする。「今よりちょっと気持ちが豊かになる食生活が大事」「『食物』授業時代との違いは、食生活をコーディネイトすることにある」実習授業の楽しさを彷彿とさせてくれる報告でした。
<感想>
つたないレポートだったのですが、みなさんが真剣に聞いてくれたし、討論も楽しかったです。家庭科は地味な教科だけれど、厳しい攻撃を受けていることに驚きました。その攻撃にも負けず、力を合わせ、向かっている仲間たちがいることを心強く感じました。運営について…。最初の自己紹介で一人ひとりの想いが聞けてよかった。主体的、積極的な参加者の姿勢と、じっくり語らせてくれた司会者に感謝します。(大阪・教師・女性)(速報「たまっこ」より)
◆第11分科会 体育・健康・食教育 ※文中の括弧半角数字は分会ごとのレポート番号
1 分科会をめぐる情勢と課題
学習指導要領の改訂作業が始まっています。そこでは、すべての子どもに身につけさせるミニマム(目標)を国が決め、それを評価基準として成果を管理する立場から議論がすすんでいます。体育について、中教審の「専門部会」は、目標=評価の柱として「身体能力」「態度」「知識、思考・判断」の3つを据えました(「経験」は留保)。今後そのミニマムを実現するための内容・教材・方法へ議論がすすむことになります。体育では、「身体能力」の重視によって、かつて頓挫した「体力づくり」を焼き直すような動きが行政主導で進行しています。「身体能力」論議の一面性を批判しつつ、子どもの心身や運動能力の育ちそびれや格差の問題を克服しうる、確かな文化や科学の学習と異質協同の学びが求められています。
健康教育では、薬物や性感染症や成人病などへの対症療法的な行動形成(ライフスキル)の教育が前面に出されている点や、青少年の性に関する実態とかみ合わない保守主義的な性教育観などを批判的にのりこえ、「人権としての健康」を共同と連帯で実現する教育が求められます。
食では、小泉政権が「食育推進」を体制化し、各自治体は条例化、会議設置、推進計画策定を迫られています。政府は肥満や生活習慣病などの改善・予防を目標としていますが、事態はもっと深刻です。生活そのものを問い直し、社会的視野から命・健康・生きる意味、食への関心と生き方の自信を体得する必要があります。食育基本法や栄養教諭制度の実施の裏では、給食や食育事業を民間主導にゆだね、公的責任を放棄する「構造改革」(指定管理者制度、PFI)や民間委託が強行されています。これでは給食を生きた教材とする食教育はできません。食教育の目標は、食べることを通じて自他の生き方に関心をもち、食文化的能力を身につけた主権者国民を育てることであり、これを学校、父母、子どもの共同課題にしたいと考えています。
2 体育・健康・食教育分科会全体会
開会行事の後、分科会をめぐる情勢と課題(政策動向や現場への現れや子どもの困難と要求)を視野におきながら、本分科会全体に共通する実践研究の課題の提起と、各分野に特徴的な問題について、「討論のなげかけ」をします。
それを受けて、参加者からも子どもの実態を出してもらいながら、討論を深めていきます。
3 各小分科会の討論のすすめ方
[体育小分科会]
1日目の午後は、(5)のレポートを受けて、鉄棒運動のトータルな学習を系統的に、異質協同のグループ学習によってすすめることで、子どもたちに豊かな文化の世界と能力を広げていく体育実践(指導と主体的な学習)のあり方を検討します。
また、続くレポート(1)では、地域性に根ざした小規模校において、6年間で「どの子」にも確かな力をつける体育のなかで、異学年が協同する鉄棒学習の報告を受けます。技術・表現を介してつながりあう学習とそれを促す教材づくりや指導について考えます。
2日目の午前は、(10)のレポートから、少年サッカークラブで文化の学習の場をつくることの意味や可能性を実践にそくして検討してみたいと思います。また、レポート(14)を受けて、自分たちの走りの科学的分析と課題を明確にした学習でタイムの短縮をはかる陸上競技の授業について考えてみたいと思います。
2日目の午後は、持ち込みレポートがあれば受け、それまでのレポート報告と検討をふまえて小分科会のまとめの議論をします。いま、子どもの実態をふまえて体育で教えること・育てることを、能力形成、文化や科学の認識、かかわり合う力などいくつかの点から考えてみたいと思います。
[健康・食教育合同]
<1>子どもの健康と食をめぐる状況ととりくみの課題
レポート(4)の報告を受け、今日の子どもたちの健康・食や生活の実態を出し合いながら、健康教育と食教育の課題について話し合います。
[健康教育小分科会]
<2>子どもの生活の実態にどうとりくむか(2,6)
<3>いま、教育としての学校環境を考える(3)
<4>困難をかかえている子どもの支援のあり方(8)
<5>「合同会議」で広がる健康づくりの輪(15)
<6>現代の青少年の性教育はどうあればよいか(13)
<7>環境問題をどのように学習するか(11,12)
<8>健康教育小分科会のまとめ
[食教育小分科会]
1日目の午後は、健康教育と合同で討論した後、(4)のレポートにかかわって、子どもの食の現状、子どもに食文化能力を獲得させていく教育的な働きかけについて、また、それが可能となる学校運営のあり方や条件を交流します。
2日目は、午前中に(7,16)のレポートを中心に、小学校・中学校の子どもたちの食の現状と子どもがどのように食に関する関心を発展させることができるか、栄養教員・調理員、教師と子どもたちとのコミュニケーションのあり方、子どもたちが食を自分の生活目標として課題化するための実践のあり方などを検討します。
午後は、(9)のレポートを中心に学校給食の民間委託の新動向と問題点について論議します。また、食教育基本法や栄養教諭制度が実施されて2年、国民や子どもが人間として生きることに資する事業や教育的活動がどのように計画され、着手されているかにも着目して交流します。
4 分科会のまとめ
あらためて子どもの現実を見すえ、各小分科会での討論の成果をふまえて、これからの実践の方向と展望、実践の目標を描き出し交流したいと思います。
◎育ちそびれの子どもたち
まず共同研究者より、�〇劼匹發燭舛楼蕕舛修咾譴�全面化していて、「体力」もなく「学力」もない子どもたちは、社会・他者との関わりや、自己肯定感の形成もできない状況にあること。��家庭での文化資本の差を反映して、放課後の運動、スポーツ活動への参加の有無と運動能力感、体育授業への態度に相関関係があること。そして�0蕕舛修咾譴�小・中・高へと持ち越される傾向があることが報告されました。
そんな中、改訂作業中の学習指導要領ではすべての子どもに身につけさせるミニマム(目標)を国が決め、それを評価基準として成果を管理する立場から中教審での議論がすすめられています。午後から3つの小分科会に分かれて討論をすすめます。(速報「たまっこ」より)
◆第12分科会 生活指導・自治的活動 ※文中の括弧半角数字は分会ごとのレポート番号
はじめに
高1生徒による中学女子の殺害事件を含めて、12歳から18歳の年齢層での事件が続いています。その特徴は、親密関係または接触集団での他者攻撃、他者の殺傷にあります。それだけ、身近で大切なはずの他者が抑圧・支配の存在に転じているのです。
何がそうさせるのか。現代社会の競争の仕組みが、子どもたちの関係性を破壊しています。自分で自分を見限らざるを得ない子どもの本音は、「自己の存在の確かさをわからせてくれる他者に出会いたい!」です。
親密関係での暴力を乗り越えるには、この共生の姿を身近な生活活動の中に見つけることが不可欠です。生活指導は、この意味で、共生と自己・他者発見の営みです。この〈生活〉が子どもを導き、教師をよみがえらせます。
困難な中で提出された実践レポートを読み深めていくために、討論のベースとなる3つのトピックスをのべてみます。これらは、今日、生活指導実践を読みひらいていく際の共通の論点になるものと言えるでしょう。後述の分散会での討論の構成<1>、<2>のいずれにもかかわる視点として位置づけられると考えています。
(1)子どもとつながるために
否定的な言動をくり返す子どもたち。他者や自分を信頼することができず、他者破壊・自己破壊の枠内に閉じこめられているかれらが他者や自己への信頼をとりもどしていくために、どのような指導が求められているのでしょうか。さらに、こうした言動を示す子どもたちを攻撃し、排除するような集団ではなく、さまざまな活動への参加を励ましあうような共同の関係性をどのように築いていくのでしょうか。
子どもとつながる、子どもがつながる指導性の発揮が求められているわけですが、なかなかうまくいかずに、悩み苦しんでいる教師の現実があります。分科会では、こうした課題について、子ども(集団)に届く応答・対話の世界をていねいにつくりだしていく、という視点を大切にしていきたいと考えています。
(2)子どもたちのつながりと自立を励ます文化活動のために
小中学生と高校生の発達段階の違いは、行事・文化活動の質にも反映されます。しかし、小中学校では、学校5日制と「総合的な学習の時間」の実施の中で、従前の諸活動が精選され、子ども主体の創造的な実践がしにくくなっています。
このような中で、高校からの行事・文化活動の報告が注目されます。しかし、今回は中学校からも報告が寄せられました。
これらの報告を受けて、次の6点が論点になると思われます。
<1>文句なく楽しいとりくみを大切にする意味は何か。
<2>とりくみのプロセスで生ずるトラブルや葛藤に、どのように対応していくのか。
<3>文化創造の質の問題をどう位置づけていくのか。
<4>文化の継承という視点からとりくみをどう評価していくのか。
<5>とりくみを通して、仲間や地域とどのようにつながっていったのか。
<6>とりくみの中で、教師の果たす役割は何か。
(3)子どもと向きあうことと教師の揺れ
レポートの中には、子どもと向きあうことの困難を素直に報告しているものがあります。また、体罰なしで子どもの指導にあたることを決意するまでの教師集団の思いを報告しているものもあります。
今日の「学校」で、子どもと共に生きることの重さは、誰もが感じているかもしれません。子どもたちの生きるつらさと、教師の生きるつらさ、そしてそこから共に支えあって再生していく展望についても分科会の中で交流したいものです。とりわけ、青年教師が「学校」でどんな思いで仕事をしているかも参加者から発言していただきたいものです。
分散会での討論の構成
3つの分散会においては、共通して、<1>学校・学年づくり、<2>行事・文化活動、という組み立てでレポートを検討します。これらは一応の区別であって、基本はレポートが発信する子どもの見方、子どもへのかかわり方、個人と集団の関係、そして対話的指導性の掘り下げにあります。先に述べた、生活指導をめぐる今日的な3つの関心トピックスを重ねながら、学びあっていきます。
全体会・シンポジウム――実践報告と討論――
〜子どもたちの困難をきりひらく生活指導〜
3つの分散会で報告された実践をもとにシンポジウムをおこないます。<1>いま、子どもたちは子ども集団の中で、おとなや社会との関係の中でどのような困難を抱えているのか。<2>この困難な状況をきりひらく糸口はどこにあるのか。学校現場の課題を語りあいながら、「明日」につながる視点を共有したいと思います。
◎子どもたちの行動から考える
「教室を出るところから集会が始まっています」と言う校長の言葉に反応して教員が整列させてしまう。いうことをきく静かな子がいい子なのか、発達に応じた興奮が必要ではないか。子どもたちのエネルギーを引き出す視点での指導が必要だと話し合われていました。
「むすび遊び」の実践報告では、遊びの後、袋のひもやはちまき、エプロンのひもが結べるようになった、風呂敷を使っていつまでも遊んでいる、勉強ができない子も違った面で評価できると語られました。
ベランダでの喫煙は、子どもたちの助けてほしい叫び」という発言に、「何かすることをすべてヘルプ信号ととっていいのか」という反論があり、これからの論議が待たれるところです。
<参加者の感想>
○アスペルガーやADHDの子どもがいる学級での生活指導実践が千葉と京都の報告で語られました。もう15年も前に、まだ、軽度発達障害ということすら話題に出なかったころにとりくんだ実践は、今日課題になっていることと同じ課題だったと思い出し、自らの実践への意識を高める機会になりました。2人のレポートを含め、提案された方々、参考になる報告ありがとうございました。(静岡・ 教職員)(速報「たまっこ」より)
※本稿は、「教育のつどい2006」要綱からレポートの特徴と討論の組み立てについて紹介しています。また、合わせて速報「たまっこ」で取り上げられた当日の分科会の様子を紹介しています。速報の内容は、全日程を通じて取材したものではありませんのであらかじめご了承ください。
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