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【集会】2008/07/29
「『新採1年目で退職する教員』の問題をとおして教師政策を考える」シンポジウムを開催!
退職強要など深刻な実態明らかに!
全教は7月29日、東京の全国教育文化会館で「『新採1年目で退職する教員』の問題をとおして教師政策を考える」シンポジウムを開催し、全国から91人が参加しました。
2006年度に採用された教員のうち年度末までに退職した人数が295人にのぼっていることが文科省の調査で示されるとともに、全国各地から条件付採用期間終了時の退職強要や免職などの問題、自殺に追い込まれた初任者の問題などが報告されています。このシンポジウムは、こうした深刻な実態を明らかにし、権利・法制面、教育問題の両面から本質を解明し、課題を明らかにすることを目的として開催されました。
打開と克服に向けてとりくみの方向を
――米浦正 全教委員長――
開会冒頭、米浦正全教委員長は、「若い先生たちは、子どもや学校が好きで選んだ道、狭き門を通ってきた。希望にあふれ、子どもたちとぶつかり合いながらも、力いっぱいとりくんでいるはずの青年たちを、どうしようもないほどの困難な状況に追い込んでいる。教育行政、施策による管理支配、それと密接に係わる長時間過密労働を強いられる状況がその背景にある。新採者は一人で働いているわけではない、職場はどういう状況にあるのか、人間関係はどうなっているのか、職場での先輩や同僚とのかかわり合いの中で教員としてゆたかに成長し、生き生きと働くために、私たちは考えていかなければならない。このシンポジウムで、問題の打開と克服に向けてとりくみの方向を見出したい」とあいさつ。
新採者を追い込んでいるのは管理支配
――蟹沢昭三 全教生権局長――
シンポジウムでは、コーディネーターの蟹沢昭三全教生権局長が文科省の調査データを示し、「条件付採用制度の1年後の退職状況がこの10年で5倍強(0・26%が1・36%に増加)になっている。07年度の調査は発表されていないが、全教構成組織のある都道府県を調べただけでも、06年度の295人を上回る傾向にある」と指摘。その背景として、「30歳以下の勤務実態は勤務日と休日を合わせて72時間。持ちかえり仕事を合わせると平均で114時間」との深刻な20代の長時間過密労働の実態と、教育行政による管理支配と競争があるとし、「そういった実態と背景を専門的な立場から議論していただき、打開の方向を明らかにしたい」と述べました。
条件付採用期間を6カ月に戻すべき
――新堰義昭 全教副委員長――
「初任者研修制度を権利の角度から」として新堰義昭全教副委員長は、「長時間過密労働の実態と教育行政による管理支配の問題が背景にあることの上に、直接的な引き金になっているのが『指導力不足』教員政策の強化と新勤務評価制度の導入だ」と指摘。さらに「地公法第29条の2第1項が定めた適用除外は、正式に採用されればかくかく然々の事由に該当しないと免職できないがそういうことにとらわれず免職できるということであり、分限に関する規定が適用されないということは病気休職制度がないということ。また正式採用になれば不服申し立てできるが、これも適用されない」と述べ、「条件付採用期間はセーフティネットのない『空中ブランコ』のようなものだ」と特徴づけました。
退職強要を受けた人からの相談などから退職に追い込まれる典型的なケース(保護者の苦情⇒校長が本人の弁明を聞かず一方的に担任外し⇒「指導力不足」教員として観察・記録⇒教員に不向きだと繰り返す⇒他の教職員に相談させないよう孤立化⇒依願退職へ誘導)を示し、最後に結論として、「制度の見直し改善が求められる。新採者を育てられない学校で、どの子も伸びる教育はできない。『教員の地位勧告』では、『励ましと頼りになる手ほどきのため』の仕組みでなければいけないと言っている。また、尾崎先生公務外認定取消請求控訴事件の東京高裁判決では『うつ病になりやすい性格とは、「問題のある性格傾向」という意味ではなく、むしろ適応力のある誠実な気質と強く関係する』としている」と述べ、「条件付採用期間を行政職との均衡からも6カ月に戻すべきであり、せめて条件付採用期間においても一定の病気休職を認める制度が必要だ」と強調しました。
養成段階で勤務実態と解決の方向の認識を
――土屋基規 近畿大学教授――
土屋基規近畿大学教授は、教師の準備教育、養成の段階にかかわって、「教職員の長時間過密労働の実態の中で、とりわけ1年目の人は初任者研修制度のもとにおかれている。教師になるための準備教育の段階から、この現状をリアルに認識しておくことが必要だ。学生は過労死寸前の劣悪な勤務実態にあることを知らない」とし、『教職員権利憲章』のような解決していく方向や『教員の地位勧告』などを知らせ、「今の勤務実態をどのような方向で解決していったらいいのか、ということについての基礎的な知識をつけることが必要だ」と強調しました。
初任者研修制度、条件付採用制度の運用の問題について述べる中で、条件付採用は「分限処分の規定が適用外となっているが、条件付だろうとなかろうと公平な取り扱いを受けることが大事で、条例などで扱い方を定めるということが必要だ。条件付採用制度をなくすことは難しいが、条件を付けることは可能だ。条例や組合の確認事項でできる。病休を認めるとか、宿泊研修をやめさせるとか、具体的な要求を掲げる必要がある」と指摘。また、「初任研の中での適格性の評価というのは、本来やらないということになって1年に延ばしたという経過がある。それを履行させることが必要だし、勤務評定を行うというのであれば、その内容や手続きや評価者、本人の異議申し立てについてきちんとさせることなどが必要になってくる」と述べました。
さらに学校の運営と新任者の力量形成の体制について、「教職に就いて、教育的な力量を高める上で意義があったのは、『先輩や同僚のアドバイス』というのが、どの年代に聞いても多い。しかし、いま職場で若い人を育てる体制が組みにくいように、分断して評価して管理するというやり方がまかり通っている。これをどう打ち破るかが大きな問題だ」と述べました。
教職員は教職員・父母との共同の中で育つ
――山口隆 全教副委員長――
山口隆全教副委員長は、なぜ1年目で退職する初任者が増えているのかについて4点を指摘。1点目として、「05年の中教審が教育の『構造改革』路線――競争と管理、格差づくりの教育政策がある」とし、「子どもに対する競争と管理、格差づくりの教育政策は、教職員に対しての競争と管理を必然的にする」と指摘。2点目として、「いまの青年教職員は自らが競争主義的教育制度の評価の中で育ってきた。学卒新採で言えば、89年に白紙撤回を要求した学習指導要領、高校入試制度の多様化を経て、教職員になっている。その点では、二重の競争主義におかれているのではないか」と述べ、新採者が複数いる職場の新採者から聞いた「私たちは職場では仲良くしているように見えますが、心の中ではそれぞれが競争相手だ」との言葉を紹介し、「刷りこまれてきている競争主義と教育政策の二重の競争主義がある」と強調しました。
3点目として、自主的研究の抑制・抑圧をあげ、「夏休み中の勤務地を離れた研修を認めず、勤務を強要している。初任研では年間60日以上の校内研修、30日以上の校外研修が行われ、週1回は子どもから引き裂かれる状況にある。研修という名の『洗脳』と言えば言い過ぎだが、それに近い管理の体制が敷かれている」とし、さらに「全体としての教職員の抑圧体制が全教青年部調査にみられるようにパワハラ、セクハラをうみ出す背景と温床になっているのではないか」と述べました。
4点目として、教職員集団を教職員評価による分断、支配することで「力を合わせた教育活動を困難にする。個別的なものはもちろんあるが、教育活動は集団的なものだ。こうした分断・支配で教職員の競争・管理をさらに加速させている。これらは�犲最圓魑�さぬ体制づくり�瓩任呂覆い�と考えている。これらが初任者を含めた教職員の闊達な教育活動をすすめることを困難にし、問題にあたったときに挫折して、退職せざるを得ない重大な背景を持っているのではないか」と述べました。
最後に現状をどう打ち破るかとして、「競争と管理の教育政策の抜本的な転換だ。昨年の参議院選挙後の国民の声が政治を動かすとの新たな情勢のもとで、新しい位置づけで国民的な運動を展開する必要がある。同時に、教師は仲間との学び合いで力をつける。職場での失敗を受け止めていく、助けてと言える関係が必要だ。また、父母との関係でどう学び合えるかが問われる」とし、最後に「教職員は教職員・父母との共同の中で育つ」と結びました。
教師を自己否定に追い詰める支配と抑圧
――勝野正章 東京大学准教授――
勝野正章東京大学准教授は、追い詰められる教員の背景と教育政策について、「新採1年目で退職するという問題は、いまの学校がかかえこまされている深刻な危機の端的なあらわれ。この危機は新採者や青年教員など相対的に弱い立場の者に集約的に現れる性格を持っている」と指摘。「教師が追い詰められる時に、(�爐海譴鬚笋讚甅爐△譴發笋讚瓩筏佑瓩蕕譴襤有爐海譴癲△△譴發笋蕕覆�ゃ�瓩板匹す�まれる⇒破綻⇒自責・自己否定)といった共通した道筋がある」と述べ、追い詰められていく背景の特徴として、「�ー�囲からもとめられると遮二無二がんばる教職員が多い。そうした要求は権力的な場合が多いが、『できる』ことへのこだわりがそれを見えにくくしている。�∋劼匹發箸里佞豺腓い了�間を削ってしなくてはならない書類作成の仕事が増えており、それへの過剰なチェックが行われている。特に若い教職員への『指導』の名によって行われていることが多い。��失敗を頭ごなしに怒鳴るなどのパワハラにより、失敗への恐れから緊張と不安を生じさせ、教職員を萎縮させている。�ざ疑Π�同士の『がんばり』や成果が日常的に比較され、競争意識を芽生えさせている」ことを示しました。
さらに、「こうした支配と抑圧を可能なものにする学校における権力構造、権力集中や階層化の問題」について、「校長のリーダーシップの強化や主幹制度の導入など近年の政策を見ることで明らかだ。そして、学校に成果をあげることを求め競争を強いる教育政策、さらに『良い教師』と『悪い教師』の一方的な定義や判断をする教師政策に原因がある。こうした政策が教師の判定、評価、比較を管理職や同僚との日常的なやりとりや関係性の中で組み込む、あるいは強めている」と指摘。さらに、「指導力不足」教員、教員評価、教員免許更新制などの一連の教師政策について述べ、「これらの教師政策は、深刻な動揺を引き起こしている。それはこれらの政策が、『良い教師』と『悪い教師』を定義するものであり、『良い教師』が行う教育が『良い教育』であり、『悪い教師』が行うものが『悪い教育』となっていくからだ。日の丸・君が代問題での不起立・不斉唱の教師は『悪い教師』であり、『悪い教育』だとの飛躍した論理がまかり通ってしまう。そして、�爐修Δ覆蕕覆い燭瓩砲海譴蕕寮�策が示す『良い教師』になり、『良い教育』をしなければならない�瓠宗修海Δ靴導惺擦砲�いて意見と実践の多様性と自由が極端に排除されてていくことになる。学校に限らず社会に働く場で、『自己決定』と『自己成長』が保障されていなければならない。その対局にあるのが支配と抑圧だ」と批判しました。
最後に、「国や教育委員会の教育政策や制度の問題があり、改善が必要だ。教育のあり方を決定する過程からの排除は、教師の『自己決定』を排除する支配に他ならない。また、学校・職場づくりとして、『自己決定』は他者によって命令されたり妨げられたりしないこと。相対的な弱者を含むすべての教職員が『自己決定』と『自己成長』を果たすために、誰もが意見を言い、聞いてもらえる時間と場所を学校の中につくる必要がある。排除の場ではなく、『包み込む』場を学校の中につくりだしていく必要がある」と述べました。
新採者を守ることは教職員としての権利を守ること
――村山晃 弁護士(全教常任弁護団代表)――
村山晃弁護士(全教常任弁護団代表)は、「新採者がいまの教職員の置かれている矛盾の坩堝となっている。学校に権利が確立されていないということを私たちがしっかりと見据えて、権利を確立させるために真剣にとりくまないと、いまの若い人たちの問題は解決されない」と力を込め、この間の裁判闘争の到達点も踏まえた法制度上の問題について4点にわたって述べました。
勤務時間の問題について、「学校の中にいわゆる『勤務時間』がない。まず学校の中に『勤務時間』を取り戻し、『勤務時間』の考え方が確立すれば、新採を含む若い人たちが無定量な長時間労働の真っ只中に追い込まれるということはない。京都市の超勤裁判で証言した校長たちは、『1、2年目は10時、11時まで働いて当たり前だ』と言った。若い人たちをどう守るかという時に『勤務時間』を確立することが、いまほど問われている時はない」と強調しました。
労働安全衛生体制について、「(分限免職取消裁判で)追い込まれてうつ病になった新採者の病状について、『心身に異常をきたしていると感じなかったのか』との問いに校長は、『最後までまったく感じなかった』と言った。うつ病は、突然発症する病気ではない。校長は労働安全衛生の関係で言うと学校の責任者なのに、前兆に何ひとつ気づかなかったことを法廷で公言している。それが学校の現状であり、このことが若い人たちを直撃している」と指摘。「前兆に気づけるかどうか。若い人たちをサポートしようとする体制が学校の中にできるだけでも非常に大きい」と強調しました。
また、教職員の身分の不安定さについて、「1年目の教員は何ひとつ権利がないと思っている人がいる。それは校長にも多く、京都の裁判勝利が驚きを持って受け止められているほど、新採者は無権利な状態に置かれている。1年目であっても権利がある。1年目から2年目となるのは採用行為ではない。2年目で断ち切ろうとすれば『免職』になる。従って分限免職として処分するわけだから、合理的な理由がいるのが当然で、その『合理的な理由』の枠組みをもっとしっかりとしたものにさせていくことが重要だ」と述べるとともに、ILO・ユネスコ『教員の地位勧告』が新採者への指導と身分保障を宣言していること、CEART勧告が「教員評価を恣意的にやってはいけない。日本の教員評価は極めて恣意的だ」と述べていることを紹介しました。
教育委員会の閉鎖性、官僚制について、「大分の教育委員会の問題から教育委員会の閉鎖性、官僚制の実態が明らかになっている。光を当てれば教育行政は、非常に誤った主観的、恣意的なことしていることが明らかになる。そして公平性さを担保させるための手立てが必要であり、教育委員会を民主的に変えていかなければいけない」と述べました。
最後に、「教育行政がもたらしている課題と新採者を守ることをしっかりと結びつけて、たたかっていく必要がある。新採者を守ることは自分たちの教職員としての権利を守ることにつながる。そのことを学校の中で定着させていくことが重要だ」と強調しました。
これからが出発点として、この問題を社会的に明らかに
――東森英男 全教書記長――
続いて、退職に追い込まれた経過と分限免職取消裁判のたたかい(京都市教組)、新任教員の自殺について(埼教組・越谷市教組)、1年目のハラスメント、退職強要とたたかって職を守った経験(都教組)、退職を強要された事例の経過(青森高教組)、新任者・青年を守り育てるとりくみ(全教滋賀教組)(大教組)、青年教職員のつながりをつくることについて(全教千葉青年部)などの報告を受けました。
京都、東京の発言者の報告では、同僚の前で管理職が「辞めちまえ」などの暴言・叱責を浴びせられたこと、子どもの前で不適切な指導をされたこと、他の教職員から孤立させられ、「経歴に傷がつくから辞職しろ」と依願退職を誘導されたことなど、管理職から退職を強要された事例が具体的に語られました。また、初任者としての体験を経て、初任者に「大丈夫?」との声かけを行っている全教滋賀教組青年部のとりくみ。青年の�牾悗咾燭き甅犖鯲�したい�甅狷雲ぢ紊箸弔覆�りたい�瓩箸了廚い鳳�えた青年を中心にした大教組や全教千葉青年部のとりくみが紹介されました。
東森英男全教書記長は、閉会あいさつで「本日のシンポジウムで具体的な話を聞き、深められた。今日を出発点としたい。295人の退職は氷山の一角であり、新採者すべてがたいへんな状況に置かれている。こうした問題への手立てと共に、背後の教育政策を問題にしなければならない。課題を社会的に明らかにし、全教もさらに深めていく」と述べました。
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