【談話】2005/09/06
『「全国的な学力調査の実施」に反対する』
2005年 9月 6日 全日本教職員組合 教文局長 山口 隆
文部科学省は2007年度から、公立学校の小学6年生と中学3年生全員を対象に「全国学力テスト」を実施する方針を固め、平成18年度概算要求で、事前の体制整備等の予算として42億6742万円(文科省初中局要求分と国立教育政策研究所要求分の合計)を位置づけました。
中山文部科学大臣は、教育改革案「甦れ、日本」で、学力向上策と称し「競争意識の涵養と、全国学力テストの実施」をかかげるとともに、「全国学力テストをして競い合う教育をしないといけない」「これまでの教育には、競い合う教育や切磋琢磨する精神が欠けている」などの発言を繰り返してきました。
しかし、国連子どもの権利委員会は日本の子どもたちが、「高度に競争的な教育制度のストレスにさらされ、…子どもが発達のゆがみをきたしていること」や、「学校嫌いの数が看過できない数になっていること」を懸念すると表明しています。OECD調査で「学力世界一」と注目を集めたフィンランドの例をひくまでもなく、学力向上のために必要なことは、中山文科大臣の強調する競争の強化ではなく、学校が子どもたちにとって安心と信頼に満ちた学びの場となるよう、教育条件を整え、学校の自主性や創造性を回復することです。
この間、多くのマスコミも指摘するように、日本の子どもたちには「勉強しようとする意欲の低下」「ものごとを考える姿勢の低下」が見られ、「世界一の勉強嫌い」にさせられていることに大きな特徴があります。
発達に即さず系統性を欠く学習指導要領、子どもたちの生活から切り離された「過度に競争的な教育」「習熟度別学習」など差別と選別の教育の推進、一人ひとりの子どもへのていねいな対応を困難にする多人数学級、教職員のゆとりや教育の自由を奪う教育施策などの改善こそが求められます。また、青年の雇用問題やルールなき労働実態など、子どもたちの未来への希望を奪う、歪んだ日本社会の実態が子どもたちの学力問題の背景としてあり、これらについても改善の手立てを講じるべきです。
日本の教育は、「全国一斉学力テスト」の実施が大きな弊害をもたらした過去の苦い経験を持っています。平均点をあげるために、成績不振の子どもをテスト当日欠席させる学校が現れるなどの事態も生まれ、1966年度に廃止されました。近年一部行政で行われている、悉皆による「学力テスト」実施と学校ごとの結果発表は、「どうせ俺たちの学校はダメ学校だ」との声に見られるように、子どもたちの心に大きな傷を残すものとなっています。
「全国一斉学力テスト」のすべての子どもたちへの押しつけは、子どもたちの学力向上につながらないばかりか、いっそう競争をあおり、子どもたちの成長に取り返しのつかない弊害をもたらすものです。
私たちは、子どもたちの確かな学力の形成とすこやかな成長を求める立場から、「全国一斉学力テスト」の実施に強く反対し、その実施を許さぬ国民的な運動をつくるために全力でとりくみます。
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