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【報告】2005/01/17 
『日本の教職員の労働実態と健康への影響について』

 全教は1月17日、ILO本部に要請団を派遣し、要請・交流を行いました。(1)「指導力不足教員」政策と新教職員評価制度導入についての「CEART勧告」にかかわる「追加情報」の提出、(2)日本の教職員の長時間過密労働と健康破壊についての意見交換が訪問の目的です。以下は、懇談のための報告資料です。
 
【添付ファイル】⇒報告資料(図表など含む)の(PDF42.8KB)のダウンロードはコチラ!


『日本の教職員の労働実態と健康への影響について』
― ILO・ユネスコ「勧告」の遵守を求める今後のとりくみに向けた懇談資料 ―

2005年 1月 全日本教職員組合
 
 日本の教職員の長時間・過密労働の実態が深刻化しています。ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」が遵守されず、日本では教職員の労働時間と労働量について実質的にルールなき状態が広がっています。この中で、過労死を始め、日本の教職員の深刻な健康破壊が広がっています。教職員の長時間労働と過度なストレスは一刻も放置できない状況にあります。
 私たちは、この深刻な実態を改善したいと考えています。このとりくみをすすめる上で、日本政府に、ILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」遵守を求めるとりくみは、極めて有効な手段の一つであると考えています。
 今回、日本の教職員の労働実態と、健康への影響に関するいくつかの資料をお示しし、日本の実態に関する意見交換を行なうことを通して、今後、共同専門家委員会への申し立てなども視野に入れた、私たちのとりくみを推進するための、有効で参考となる助言・援助を得られれば幸いです。
 

1.日本の教職員の労働実態と、健康への影響について

(1) 過労死発生と労働時間の現状 
 今年、日本では教員の過労死に関する二つの判決が相次いで確定しました。一つは大阪府堺市の故鈴木均先生過労死判決(2004年1月)、もう一つは京都府宇治市故荻野恵子先生過労死判決(2004年9月)です。鈴木先生の場合発症前2週間の労働時間は146時間5分であったと判決では算定されています。荻野先生の場合は、発症前140日間(年末・年始の長期休業日を含む)で、正規の勤務時間680時間の他に、正規の勤務時間を超える時間外労働を542.8時間行っていたと判決文に記述されています。週あたりの労働時間に換算すると、鈴木先生の場合73時間、荻野先生の場合61.1時間になります。
 日本の教員の労働時間は、一日8時間、週40時間と定められています。また、教育職員には原則として正規の勤務時間を超える時間外労働(以下、時間外労働)をさせてはいけないことが定められています。しかし、この二人の事例ばかりでなく日本では、このような正規の労働時間をはるかに超える異常な教職員の働き方が広く見られる状態になっています。
 
(2) 教職員の労働時間等調査から 
 2002年に全教が行った全国規模の調査(別紙、資料)では、1ヵ月の時間外労働の平均が校種別にみると、高校86時問43分、中学校99時間48分、小学校83時間27分となっています。教諭の平日1日の平均労働時間11時間13分、土日出勤を含む1週間の平均労働時間は60時間15分になっています。(2002年5月実施、教職員の生活・勤務・健康実態に関する調査。公立学校教職員調査、教諭有効回答者数1006名)
 国立の教育政策研究所が2001年に全国の小学校を対象にして行った調査でも同じ傾向が見られます。この調査によると、1日の勤務時間は平均11時間となっており、しかも、家での業務が1時間17分なされていることを認めて、「持ち帰り仕事が多いのが特徴」とされています。平日だけで1ヵ月の時間外労働時間が約66時間にもなっています。
 この間、各地の組合も調査を行ってきましたが、同様の数値が示されています。東京の多摩地方の組合による調査では、小・中学校の教員100名のうち21人が1ヶ月の時間外労働時間が、100時間を超えていました。ある小学校の20台の女性は1ヶ月の時間外労働時間が139時間32分となり、40台の女性は、130時間52分となっています。山口県高教組が2003年4月から6月までの3ヶ月行った調査では、回答者231人のうち、時間外労働時間が月平均で100時間を超えた者が21名に及び、100時間以上の月があった者は32名(14%)にのぼりました。最も多い者の時間外労働時間は1ヶ月で238時間であったと記録されています。
 今や、日本における教員の超長時間勤務は動かぬ社会現象となっています。加えて重要なことは、現在の事態が、日本の過労死認定基準からみても大変な問題であるということです。日本の労働者に過労死が広く発生する事態の中で、2002年2月、厚生労働省は過労死認定基準を定めました。それは、1ヶ月の時間外労働時間が45時間を超えると脳・心臓疾患の危険性が高まり、月80時間を越えると、業務と発症との関連性が強いとするものです。この基準からみると、日本の教員の大部分が、いつ過労死しても不思議でない労働実態の中で職務を行なっているということがいえます。
 
(3) 教職員アンケートと健康への影響 
 全教が先の調査と同時に行なった教職員アンケートでは深刻な健康実態が示されています。一晩で疲労が回復すると回答したものはわずか12.2%、ほとんどの教職員が翌朝に疲労を持ち越しています。健康状態の不調を訴えるもの43.8%、過労死不安を感じるもの54.8%にのぼっています。
 忙しすぎる、身体が持たないなどの理由で学校を辞めようと「よく思う」13.5%、「時々思う」39.7%と回答しています。ストレスを強く感じる教諭は25.5%、毎日の仕事でクタクタ47.5%、仕事の疲れがとれない46.5%、毎日が眠くて仕方がない44.7%などの実態が明らかになりました。
 教職員の一週間を平均した睡眠時間は6時間11分、約4割の教職員が6時間未満の睡眠になっています。
 
(4) 長時間労働の結果、教員の健康破壊の状況が際立ってきています。 
 実際に教職員の病気休職者(病気による6ヶ月以上の休職者)が増大しています。文部科学省統計によると、1996年頃から教員の健康破壊が激増していることがわかります。
 1990年代前半から、日本の教育は大きな変化と困難にさらされました。その中で教職員の長時間労働時間と、健康破壊が一層顕著に見られるようになりました。
 

2.教職員の長時間労働とストレスの背景

 日本においては文部科学省の施策の中で「競争的な教育」が年々拡大されています。選別を目的とする競争の教育は当然の事ながら、勝者と敗者を作り出します。敗者に対するおおらかさも、敗者復活の道も保障されない中で、競争の教育は子どもたちに大きなストレスを生み、子どもたちの育ちの歪みや、多様な荒れ(問題行動)につながっています。
 教職員ばかりでなく、日本の労働者全体が異常な労働実態におかれています。企業の一方的な都合による首切り・リストラの蔓延、家庭生活も許されないような長時間・過密労働、経済不況や商店・自営業者などの倒産など、日本の労働者の置かれた状況は家庭と子どもたちに直接影響を及ぼしています。
 さらに、日本では戦後の教育を転換しようとする、「教育改革」と呼ばれる教育施策の全面的転換が、文部科学省による「上からの改革」の形ですすめられています。学校や授業における、子どもたちの実態に応じた多様な工夫の余地(教育の自由度)が、近年、急速に狭められています。すべての子どもたちに豊かな学力形成をとの視点は弱められ、大臣をはじめとする文部科学省関係者は、公平・平等の教育をあからさまに攻撃しています。基礎的な学力形成軽視につながりかねない「総合的な学習の時間」、教科指導と生活の遊離につながりかねない「習熟度別」授業などの指導内容・方法が、学校の意向を無視して強権的に押し付けられています。日本の中央教育審議会初等中等教育分科会教育行財政部会が、2004年1月に8都県の公立小中学校教員を対象に行った調査では、小学校60%、中学校62.7%の教員が改革のスピードが早すぎると回答、小学校80.4%、中学校89.1%の教員が改革は子どものためになっていると思わないと回答しています。さらに小学校83.1%、中学校92%の教員が文部科学省や教育委員会は現場の教育問題をしっかり把握していないと回答し、小学校87.7%、中学校93%の教員が近年の教育改革によって事務処理の仕事量が増えたと回答しています。
 これら日本の文部科学省のすすめる「教育改革」は、すべての子どもたちの豊かな成長・発達をねがう教職員の思いと大きく乖離し、教職員のストレスを極端に高めています。同時に「教育改革」は、計画・調査・報告という教員の事務的労働を激増させています。日本の教員は、「もっと子どもたちと触れ合う時間が欲しい」と切実で悲痛な叫びをあげています。
 

3.日本の学校教育のいくつかの特殊な状況について

 日本の学校教育では、EU諸国の学校教育と異なると思われる特殊な状況がいくつかあります。
 
(1) 部活について 
 日本では部活と呼ばれる学校の教育課程外の子どもたちの活動の指導が広く行なわれていることです。各種スポーツクラブ、文化的クラブなどを子どもたちが選択し、授業時間外の早朝や放課後、休日などに練習を行なったり、他校と試合をしたりしています。EU諸国ではこれら活動は社会教育として、独自の組織と体制のもとに行われているものと思われます。日本では公立学校の教職員が定められた労働時間を超えて指導している実態が広く見られます。とりわけ中学校や高校ではこれら指導が長時間に及んでいます。
 
(2) 特別ニーズ教育について 
 障害などの理由で特別な教育的ニーズを有する子どもたちに対する特別な教育の対象児が日本では極めて限定されています。日本では独自の教育条件・予算措置が講じられている特別な教育的ニーズを有する子どもたちは、小・中学校で児童生徒全体のわずか1.6%(2004年5月)でしかありません。ユネスコの算定では、学齢児の約10%が何らかの特別なニーズを有しているとされています。日本では対象とされた子ども以外は、小・中学校の通常の学級に在籍し、特別な教育条件が整えられることなく、1人の担任がその子どもたちを含めた指導を担ってきました。これまでも、1人ひとりに応じた教育をすすめるために、多くの労働量とストレスが必要でした。
 日本でも近年、通常学級に在籍する障害児の問題が大きな話題になっています。小・中学校の通常学級に約67万人ものLD(学習障害)などの子どもたちが在籍すると考えられていますが、文部科学省はこの子どもたちのために、新たに教職員や予算を増やすなどの抜本的対策をとろうとしていません。結局、行政による教育条件が整備されないまま、学校と担任の犠牲と負担によってLD 児などへの新たな教育が始められようとしています。授業準備のための時間を特別な取り出し指導に当てるなど一層の労働の強化が予測されています。
 
(3) 学級規模の大きさについて 
 日本では、1クラスの児童・生徒の人数が40名を超えないことが法律で定められています。EU諸国などと比較すると極めて大きなクラスサイズとなっていると考えられます。
 例えば東京都では、1クラスあたりの平均児童・生徒数は、小学校で30.8人、中学校で33.6人になっています。30人以下のクラスは小学校で44.5%、中学校ではわずか18.1%しかありません。小学校で20.3%、中学校で37.3%が35人以上のクラスでの一斉指導が行われています。
 この大きさの集団を教員が1人で指導しています。さまざまな家庭的な問題を持つ子どもたち、障害などの理由で特別な教育的ニーズを持つ子どもたちを含めて、1人の教員がこの人数を指導することは並大抵のことではありません。多くの学校で、1単位50分間(小学校は45分間)の授業が、1日に7時間も実施される教育課程が編制されています。教育行政が指導する年間授業時間数を確保するためです。
 

4.日本の労働時間法制の問題について

(1) 日本の教員の労働時間をめぐる法制度の状況について 
 教員も1人の労働者として、「勤務時間」は「週40時間」とすることが、法や条例で定められています。加えて、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(略称で通常「給特法」と呼ばれています)という法律で、「原則として残業はさせない」としています。
 給特法は、生徒の実習、学校行事、職員会議、非常災害と4つに事例を限定し、かつ臨時・緊急な場合にだけ、例外的に残業を命じることができるものとしています。しかし、今、問題になっているのは、臨時・緊急の場合ではなく、日本の教職員が日常的に長時間の時間外労働をせざるを得ない実態におかれていることです。
 また、日本では、原則として教員に残業はさせないという制度であることを理由に、超過勤務の手当を定めた労働基準法37条の適用は除外され、教員の膨大な時間外勤務に対して時間外勤務手当ては支給されていません。
 日本では労働基準法を中心とする労働時間法制が定められ、広く労働者に残業規制がされることになっています。しかし近年、残業代を支払わない「サービス残業」と呼ばれる違法な労働実態が広がり、日本における大きな問題になっています。労働者のたたかいは、労働時間法制の遵守をもとめ、2001年4月以来450億円の残業代を雇用者に支払わせることができました。一方、日本の経営者団体はこれら労働時間法制を全面的に規制緩和する政策提言を行うなど、労働時間と労働時間法制は日本における労使のたたかいの大きな争点になっています。
 教育行政当局は、法制度上も教員の健康を守る義務を負っています。そのため、時間管理を適正に行って長時間残業をさせないよう、管理・監督する責務を負っています。しかし、この義務すらまともに果たそうとしていません。
 子どもと向きあうゆとりの確立は重要な教育条件であり、教育基本法では行政に整備義務が課されています。現在の事態は、教員の労働時間法制の蹂躙と合わせて、教育基本法にも反する違法・異常な状態になっています。
 
(2) 教員の労働量と労働時間をめぐる諸問題 
 このような違法な状態が蔓延している背景に、教育行政の展開する「自主的労働論」という詭弁があります。教職員の時間外労働は「命じていない労働」「教職員がかってにしている労働」だというのです。しかしこんな詭弁が通用しないことは明らかです。子どもたちの成長発達にとって必要な労働は、教育の仕事に他なりません。先にあげた2つの過労死裁判の判決でも、「鈴木が自宅に持ち帰って行っていた仕事の内容に照らすと、職場でそれを行うか、自宅で行うかによって、鈴木にかかる負担に有意な差が生じるものとは到底考えられない」「勤務時間は、授業、会議、打ち合わせ、個別指導等の対人職務に当てるいわゆるアウトプット時間のためにほぼ全部を使わなければならないので、恵子は、インプットは、おおむね勤務時間外に学校や自宅で行った。」と、明解に判断を下し、労働時間としてカウントしています。
 
(3) 教職員の労働時間をめぐる労使関係の状況について 
 日本の教職員の長時間過密労働、健康破壊の状況が放置されている背景に、行政当局が労働時間に関する調査を行なわず、教職員の労働時間管理を放棄し、超過勤務を野放しにしてきたことがあります。また、文部科学省は、全国的な実態調査を行おうとせず、服務監督権者である各教育委員会の責任で実態を把握すべきだなどと、国の責任を放棄する無責任な対応に終始しています。また日本国政府は、労働協約締結権など、公務員の労働基本権を認めようとしていません。
 全教はこの間、行政当局に対し、教職員の労働実態調査を実施することを強く求めてきました。その中で、2003年以降8道府県で調査が実施され、さらに2005年にかけ3県で調査実施を約束させることができました。しかし、現時点ではまだ部分的にしか調査結果が集約・公表されていません。
 

5.教員の労働時間にかかわる裁判について

 上限のない無定量の長時間労働の中で過労死する教職員が増え、他方で、行政当局が業務との因果関係を認めないことから、公務による過労死であることの判断を求める裁判が多数行なわれています。教員が勝訴する判決が多数出されています。
 過労死事例ばかりではなく、京都では教員の勤務実態の違法性を問う裁判が行なわれています。2004年1月20日、9名の京都市内の小・中学校の教員が、京都市に対して「違法な超過勤務の解消を求める裁判」を起こしました。京都新聞はじめ、各紙は「違法な超勤を放置」「残業野放し」という見出しで、裁判を起こしたことを大きく報道しました。
 原告となった9名の教員は、1ヵ月の時間外労働時間が67時間から108時間です。これは、過労死基準を上回るものです。
 この裁判の目的は、多くの教員が上限のない長時間超過労働を余儀なくされている実態、教育行政がこれを是正せずさらに労働強化を余儀なくさせていること、残業手当を出さずサービス残業を強要していることなど、日本の法規にもとづいても明らかに違法な実態があることを広く社会に明らかにし、学校における教員の仕事のあり方について抜本的な改善を求めることにあります。
 現在の教職員に課せられている労働は、教育基本法、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法、労働基準法、労働安全衛生法などに違反する違法行為であり、それにより権利侵害を受け損害をこうむったとして、超過勤務手当相当及び慰謝料の損害賠償を請求しています。この裁判を通じて現状が法律的に許されない状態にあることを行政当局に認識させようとしています。
 

6.生かされるべきILO・ユネスコ「教師の地位に関する勧告」

 私たちはこのような日本の実態を改善するために、「教師の地位に関する勧告」が極めて重要な役割と持ちうると考えています。「教員の地位に関する勧告」には、日本の教員の深刻な現状打開に生かされるべき本質的な条項が数多く含まれていると考えています。労働時間に関する89項から93項はもとより、8、9、82、84、85の各項は直接この問題に関係する条項です。
 私たちは、「教師の地位に関する勧告」を最大限生かしながら、日本の教職員の長時間労働の実態を、教職員団体と教育行政当局とが相互に直視しあい、そして、改善に向けた本格的な協議・交渉を開始するべきだと思っています。そのことを通じて、勧告が求める勤務時間のあり方、生徒数、人員について適切な基準が定められるべきであると考えています。
 日本の深刻な実態改善に向けて、ILOとユネスコの助言、援助を期待いたします。
 また、日本の教職員の長時間労働等の勤務実態にかかわる、ILO・ユネスコの適切な調査・分析を求めます。全教は引き続き資料の提供を行い、協力を惜しまないものです。




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