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【報告】2005/01/17 
『CEART第8回会議における報告に係る追加情報』【��/2】

2005年1月17日
教員の地位に関する勧告の適用に関する
ILO・ユネスコ共同専門家委員会 御中

CEART第8回会議における報告に係る追加情報


全日本教職員組合
中央執行委員長 石元 巌
 
 第288会期ILO理事会(2003年11月)で承認されたCEART第8回会議の報告(以下、「CEART勧告」)は、日本政府及び全教に対し、「『教員の地位勧告』が遵守されていない領域について建設的な対応を行うために対話を行うことを双方に要求する」とともに、「これらの諸問題の今後の展開についての情報をCEARTに常に提供するよう要求」しました。これを受けてILO産業別活動局局長クレオパトラドウンビアヘンリー氏は、全教に対し、「勧告に示された問題に関する進展と、解決にむけた処置について、常にCEARTに情報提供するよう求めたこと」に注意を払うよう要請しました。
 この要請に基づき、追加情報を提供するものです。全教は、CEARTが引き続き、日本の教職員評価による差別的な賃金・人事制度に関心を寄せ、日本政府・文部科学省に対し「教員の地位勧告」を遵守した教育行政を行うように働きかけを強めることを要望します。
 

1.「CEART勧告」の反響と学習・普及のとりくみ

(1−1)ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」の適用を監視するCEARTは、「指導力不足教員」政策と新しい教職員評価制度に関する全教の「申し立て」を受理して、第8回会議(9月、パリ)で審議し、ILOはその内容を「CEART勧告」として03年12月5日付で全教と文部科学省に対し通知しました。
 
(1−2)全教は、「CEART勧告」が、文部科学省が進める差別的な賃金・人事管理において「教員の地位勧告」が遵守されていないと明快に認定しており、日本の教育にとって歴史的かつ画期的な内容となっているとの「見解」を発表しました。そして、その中で、「CEART勧告」が、現時点では、詳細な事実関係に関する争いの解決を図ることを提起しないで、「教員の地位勧告」の原則から検討されたことに注目し、文部科学省との建設的な協議で問題の解決を図る、との全教の立場を明らかにしました。
 
(1−3)「CEART勧告」は、一方的な「指導力不足教員」認定で人格が否定され暗澹としていた教員、人事考課で職場が疑心暗鬼となり子どもと教育を歪めると心配している教職員を激励し、理論的な確信と展望を与えるものとなっています。各界の有識者も、「CEART勧告」に関心を寄せ、評価するコメントを寄せています。例えば、東京大学名誉教授堀尾輝久氏は、「『勧告』が単に理念的に条理を示すものとして生かされるだけではなく具体的で直接的な勧告として活用される先例を開いた」と評価しています。九州大学教授吾郷眞一氏は「(フォローアップ)を活用し、勧告に法的な意義を与えるかどうかは、関係当事者の今後の行動にかかっている」と述べ、ジャーナリスト斎藤貴男氏は「(教育の)危機的な状況下にあって、今回の勧告は一筋の光明である」、また教育評論家尾木直樹氏は「(指導力不足教員問題解決について)『勧告』は、その強力な助っ人である」と指摘しています。
 
(1−4)1984年にILOとユネスコが作成した『地位勧告の共同注釈』の中には、「よりよく知られ、より良く理解され、そして何よりも、より良く適用されるべき」と書かれています。全教は、「CEART勧告」の報告集を3万5000部作成し、「教員の地位勧告」と「CEART勧告」の学習を組織内の組合員に勧め、学習会を開催しています。
 そして全教は、すべての教育委員会に「CEART勧告」を届けるとりくみを提起し、全教委員長を先頭に、山口県、埼玉県、秋田県、和歌山県教育長との懇談をおこないました。高知県教組は、04年6月7日から6月29日の間に、県内54自治体すべての教育長と直接に面会し要請・懇談、8月4日には橋本高知県知事と会見しました。青森県教組は、04年7月22日から8月5日の間に、県内66市町村教育委員会を直接訪問し要請するキャラバン行動にとりくみました。教育委員や校長などへの普及も広く行われました。
 全教は引き続き、「教員の地位勧告」と「CEART勧告」の学習活動と普及運動に力を尽くすことにしています。
 

2.「CEART勧告」に対する文部科学省の対応

(2−1)全教は、この問題について文部科学省と04年3月31日に、勧告を踏まえた改善をもとめる交渉をおこないました。その際に、別紙書面を提出しました。
 文部科学省は、「CEART勧告が11月に開催されたILO理事会で審議・採択された際、日本政府は、『我が国の法制度や実情についての事実誤認や誤解が多く承服しがたいものがある。今後とも情報提供してまいりたい』と発言した」ことを強調しました。別紙書面にある、「指導力不足教員」制度の「事務次官通知」見直し要求については、「地方分権の時代、箸の上げ下げまで、『ああせい、こうせい』と口を出すことは考えていない」と答えるにとどまりました。全体として回答はきわめて不十分なものでしたが、「『地位勧告』を尊重することを噛み砕いていえば、各国の国情、法制度に従って適用するということになる」と述べ、「教員の地位勧告」を否定する立場でないことを明らかにしました。また「法的拘束力がない、重く受けとめていないとは言っていない」と弁解し、「指導力不足教員」政策と新しい教員評価制度問題で「従来どおり、窓口をとおして話をうかがうことは可能である」と回答しました。なお、文部科学省がCEARTに提出した見解の公表を拒んだため、行政文書の開示制度を活用し入手しました。
 
(2−2)しかしながら実際においては、文部科学省は、「CEART勧告」を積極的に受け止め尊重する立場に立っていません。まず「CEART勧告」の内容を全国の教育委員会に伝達することすらせず、それを教育行政に生かすよう求めてはいません。また全教は、「指導力不足教員」制度に係わる文部科学省「事務次官通知」の「CEART勧告」に沿った見直し、並びに、「新たな教職員評価の導入と実施」に関して「CEART勧告」で抵触された部分の是正を求めましたが、文部科学省は具体的な改善措置をとりませんでした。何よりも、「CEART勧告」が求めている制度改善に向けた、全教との建設的な交渉・協議の場を設けませんでした。
 
(2−3)「CEART勧告」に対する文部科学省の消極的な態度を受けて、各地の教育委員会の中には、「CEART勧告」は日本政府に向けられたもので、自分のところとは関係がない、と表明するところもでました。

3.「指導力不足教員」制度問題における「CEART勧告」を活用したとりくみと今後の課題

(3−1)『CEART勧告』は、指導力不足教員を認定する際の「適正手続き(デュープロセス)が十分であるとは言えない」ことなどに「注目」(16項)し、「文部科学省が叙述するような現行制度では『勧告』の水準を到底満たし得ないと考える」(18項)と判断して、「指導力不足教員の判定と措置に関する制度が『勧告』の諸規定に合致するよう再検討されるべきことを強く勧告する。共同専門家委員会は、これらのことは地方行政の管理運営事項であり、『勧告』の適用対象外であるという主張を認めることはできない」(20項)と指摘しました。
 
(3−2)現在、「指導力不足教員」制度は、各都道府県・指定都市教育委員会において順次制度化され、04年4月から、すべての自治体で実施されることになりました。全教は、この「CEART勧告」を理論的根拠として、制度の客観性・公平性・透明性・納得性をめざしとりくんできました。その中で、初歩的な一定の成果がありました。その例は次の通りです。
 和歌山県教育委員会は、校長の「恣意的な判断」があってはならないとして、「本人への説明」に関して、�/柔繊紛饋宗冒阿法嵜柔繊紛饋宗暴顱廚鯔椰佑妨�せることができる、��意見の相違がある場合は、本人の意見を付す、また、本人以外の同僚や組合などに十分説明できるようにする、ことを当該教職員組合と確認しました。
 山形県教育委員会は、全教山形との協議の結果、当初案にあった、「指導が不適切な教員」を評価する際の「参考とする観点」(「幅広い人間関係を構築することができない」「愛情を持って、受容的、共感的な指導ができない」など人格評価に係る項目)を削除し、恣意的な認定を避けるようにしました。
 全教は、申し立て(ALLFGATION)において、「指導力不足教員」の判断基準の中には、人格評価やプライバシーに係る事項が含まれており、恣意的・主観的な評価が避けられないとして、高知県の例をあげました。高知県教育委員会は、高知県教職員組合の指摘を受け、「金銭感覚に乏しく、浪費、借金等のトラブルがある」を「金銭感覚に乏しく、浪費、借金等のトラブルがあり、勤務に支障が生じる」「近所つきあいのトラブルから苦情がある」を「近所つきあいのトラブルから苦情があり、その対応で職務に専念できない」など、極めて不十分であるものの手直しを行いました。
 香川県では、教育委員会が「指導力不足教員」を認定する審査会の委員名と議事録の開示を拒んだため、香川県教職員組合は情報公開審査会に対し救済を求めました。その結果、情報公開審査会は教職員組合の主張を認め、県教育委員会は「指導力不足教員」を認定する審査委員会の「委員一覧」などを公開すべき、との答申を行いました。
 このように「CEART勧告」が指し示す方向で、遅々とした歩みですが、前進していることを確認することができます。
 
(3−3)一方で、心配される事例も生じています。
愛媛県教育委員会は、県立の63校(高等学校、障害児学校)の校長に対し、指導力不足教員の候補を各校一人以上挙げるよう通知し、「指導力不足教員はいない」と回答した校長に対しても、「指導力の気になる教員でいい」と説得し、報告を強要しました。
 兵庫県教育委員会は、「指導力向上を要する教員」研修の対象者を認定しました。しかし、自ら作成した「指導力向上を要する教員にかかるフォローアップシステムの実施に関する要綱」にも違反して、生徒指導上や保護者との関係において何ら問題のない教員を対象者として認定するケースが生じました。校長が、指導力とは無関係の服務上の問題のみを本人に通告し、県教委へ対象者として報告、県教委はそれをそのまま認定するというずさんで恣意的な運用が明らかになりました。認定された教員は、人事委員会に不服申し立てを行いましたが、特別研修で「身分には何の変更もなく、不利益は生じていない」として却下されました。これを受けて当該教員は04年10月13日に、処分の取り消しと名誉回復を求め神戸地方裁判所に提訴を行いました。
 埼玉県教育委員会は当該教職員組合との協議で、「まず何よりも『指導力不足教員』を出さないことが肝要であり、そのため学校で様々な手立てを講ずる必要がある」「恣意的な運用があってはならない」などを確認し、厳格に運用してきました。ところが県議会で「認定者が少ない」などの不当な質問があり、「判定の視点」を新たに制定するなど、恣意的な認定に道を開く危険がある逆流も生まれています。
 
(3−4)文部科学省は、2003年度に教育委員会が「指導力不足教員」と認定した教員数などの調査結果を公表しました。
 それによると、「指導力不足」教員認定制度を運用している都道府県・指定都市教育委員会は、前年度の23から52に増え、今年度からは60のすべての教育委員会で運用が開始されました。「指導力」不足教員の認定数は481人で、前年度より192人増えました。認定された教員のうち、免職は5人、休職の分限処分を9人が受け、88人が依願退職しました。認定の手続きの前に56人が自ら退職しました。研修を受けた298人のうち、職場復帰したものは97人で、32.6%に過ぎません。また教員以外に転職できる制度ができてはじめて3人が該当しました。
 さらに、03年度に新しく採用された教員で、1年間の条件付期間を経て正式採用とならなかった教員数は前年度より9人多い111人でした。東京都では、条件付き期間教員の9人を不採用とし、自主退職を含め48人が退職しています。
 教育委員会によって認定数に相当のバラツキがあることは重大です(グラフ参照)。この要因は、「指導力教員」の定義、本人の弁明手続、判定委員会のあり方、教職員組合との丁寧な協議など、制度の内容と教育行政の姿勢などの差異にあると考えられます。
 
(3−5)全教は「申し立て」において、「指導力不足教員」政策の問題点として、� 峪愼確鷲埖�」教員の摘発・排除を基本とし、身分不安を煽り、教員を萎縮させていること、�∨椰佑諒枳世竜_顱�不服申し立て制度、判定委員会への学校現場代表の参加など民主的手続きの不十分さがあること、�G愀覆砲△訥校�間過密労働などを放置していること、などを指摘しました。そして「CEART勧告」が、「指導力不足教員の判定と措置に関する制度が『教員の地位勧告』の諸規定に合致するよう再検討されるべきことを強く勧告」しましたが、文科省は政策の見直しを怠っています。そのため、上述したような改善が一部の地方教育委員会で行われていますが、部分的初歩的レベルにとどまっており、「指導力不足教員」制度の欠陥は全体として是正されていません。
 このような中で、私たちの危惧を裏付ける事件が起きました。東京都教育委員会は、「入学式・卒業式などにおける国旗掲揚及び国家斉唱の実施について」と題する通達を出し、卒業式で生徒が国歌を立って歌わないのは教員の「指導力不足」として57名を処分し、「服務事故再犯防止研修」を命じました。この問題では世論は分かれており、教職員は納得せず訴訟を起こしました。教育行政が「指導力不足教員」という言葉を濫用すれば、教職員のみずみずしい自発性・創造性を阻害し、あるいは教職員の良心、人間の尊厳を侵害することになるのではないでしょうか。
 
(3−6)したがって、「CEART勧告」に沿った「適正手続き」を完備した、客観性・公平性、納得性、透明性のある「指導力不足教員」制度の確立が不可欠です。そのためには、文部科学省が制度改善に着手するとともに、「CEART勧告」を各都道府県・指定都市教育委員会に周知徹底し、その趣旨で指導を行うことが必要であると全教は考えます。全教は、制度の改善に向けた協議を強めるとともに、教員の持ち授業時数の軽減、長時間過密労働の解消など教育・労働条件の改善にも努めるものです。
 
4.新しい教員評価問題における「CEART勧告」を活用したとりくみと今後の課題
5.「教員の地位勧告」の遵守に向けて、文部科額省への働きかけを強めてください




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