全教 全日本教職員組合 憲法と教育基本法を生かす学校と教育を
HOME
全教紹介
This is Zenkyo
全教最新情報
>活動報告
>声明・見解・談話・要求書など
>専門部の活動報告
ピックアップ
刊行物案内
障害児教育
青年教職員
全教共済
資料室
リンク集
INDEX 全教最新情報

声明・見解・談話・要求書など 声明・見解・談話・要求書などindexへ

【見解】2003/11/11 
『ILO・ユネスコ「教員の地位勧告」共同専門家委員会のレポートに対する、全教の見解について』

 全教は、「指導力不足教員」政策と新しい教員評価制度の導入において、ILO・ユネスコ『教員の地位勧告』が遵守されていないことを問題として、監視機構である「共同専門家委員会」に対し「申し立て」を行っていましたが、「共同専門家委員会」第8回会議(パリで開催、9月16〜19日)で審議され、その『レポート』(全文訳はコチラ!)がILOのホームページに公表されたことについて、見解を発表しました。
 


2003年11月11日 全日本教職員組合 中央執行委員会

 
1.全日本教職員組合(全教)は2002年の6月28日に、文部科学省が推し進めている「指導力不足教員」政策と新しい教員評価制度の導入において、ILO・ユネスコ『教員の地位に関する勧告』(1966年制定)が遵守されていないことを問題として、『勧告』の適用を監視し促進する機構である「共同専門家委員会」(CEART)に対し「申し立て」(ALLEGATION)を行いました。
 
 「申し立て」は正式に受理され、文部科学省からの見解(03年3月と6月)、全教の再反論(03年4月)などに基づき、共同専門家委員会の作業グループが検討を行い、第8回会議(パリで開催、9月16〜19日)で審議されました。その『CEARTレポート』がILO国際労働基準委員会(11月11日開催)の議題資料としてILOのホームページに公表されています。今後、ILO理事会とユネスコ執行機関の承認を経て、日本政府及び全教に対し通知される予定となっています。
 
 『CEARTレポート』は、文部科学省の教員評価による差別的な賃金・人事管理において、『教員の地位勧告』が遵守されていないという全教の「申し立て」を全体として明快に認定する、日本の教育にとって歴史的かつ画期的な内容となっています。一方的な「指導力不足教員」認定で人格が否定され暗澹としていた教師、人事考課で職場が疑心暗鬼となり子どもと教育を歪めると心配している教職員を激励し、理論的な確信と展望を与える内容となっています。
 
 共同専門家委員会はILO理事会とユネスコ執行機関に対し、「検討結果を日本政府及び全教に伝え、『勧告』が遵守されていない領域について建設的な対応を行うために対話を行うことを双方に要求すること」(33項)を勧告しています。私たちの「申し立て」の動機は、単に文科省を非難・告発することではなく、国際基準となっている『勧告』にそった客観性・公平性・透明性を備えた教職員人事制度を実現することにあり、この立場から『CEARTレポート』を支持し、歓迎するものです。
 
 
2.『CEARTレポート』の骨子は、下記の通りです。
(1)『CEARTレポート』は、検討の大前提として、次のことを再確認しています。
「『勧告』9項は、指導的原則として、教員団体は教育の進歩に大きく寄与しうるものであり、したがって教育政策の決定に関与すべき勢力として認められなければならないことをうたっている。これを受けて、さらに10項(k)は『教育政策とその明確な目標を決定するためには、権限ある当局と(その他の団体等とならんで)教員団体の間で緊密な協力がなければならない』と述べている。こうした主張は75項、49項、44項、124項においても展開されているところである」(9項)
 『CEARTレポート』は、文科省と各教育委員会が「管理運営事項」であるという理由をあげて、指導力不足教員や教員評価問題で交渉・協議を拒否したと全教が主張している点に関し、次のように明確に認めています。「『勧告』が予定しているようには協議が行われなかったという申立ては妥当であるというのが共同専門家委員会の結論である」「1966年『勧告』は管理当局が評価を行うことを否定していないが、教員団体はどのように評価を行い、評価結果をどう用いるかを確定するのに関与すべきものである。2つの制度の導入と現実の運用に上に引用した『勧告』の諸条項がまさしく適用されるものであることについては、まったく疑いの余地がない」(12項)
 
(2)指導力不足教員問題について、『CEARTレポート』は、指導力不足教員を認定する際の「適正手続き(デュープロセス)が十分であるとは言えない」ことなどに「注目」(16項)し、「文部科学省が叙述するような現行制度では『勧告』の水準を到底満たし得ないと考える」(18項)と判断しています。さらに、判定委員会の在り方に関して、「共同専門家委員会委員の経験に照らすと、専門職としての教員の指導や能力に関するような非常に重要な決定を行う機関から現職教員が排除されているのは不可解であり、通常認められているやり方に反する」「何よりこうしたやり方(非公開)は他国では見られないからである」(19項)と手きびしく批判しています。
 
 そして、「指導力不足教員の判定と措置に関する制度が『勧告』の諸規定に合致するよう再検討されるべきことを強く勧告する。共同専門家委員会は、これらのことは地方行政の管理運営事項であり、『勧告』の適用対象外であるという主張を認めることはできない」(20項)と文科省の言い分を退けています。
 
(3)新しい教員評価問題については、「共同専門家委員会が知りうる範囲において、過去に実施された多くの勤務評定制度は公正かつ有効に運用されず、結局は廃止されている」と注目に値する報告を行い、「成功の鍵は真に客観的な基準をきわめて慎重に定義することと、誰から見ても透明性の高い公正な運用制度を確立することにある。適切な構成員からなる独立した機関に審査を請求し、不服を申し立てることのできる実効的権利など、恣意に対する適切な防禦の保障はその一部である」(22項)と指摘しています。さらには「共同専門家委員会は、相対評価の目的が『評価結果を給与、昇任その他人事管理に適切に反映させるため』とされているにも関わらず、新たな勤務評定制度は給与決定を目的とするものではないと文部科学省が主張していることに当惑を覚える」(30項)とまで述べています。
 
 そして、次のように結論付けています。「全教と文部科学省の提出した意見から、共同専門家委員会は新たな教員評価制度の導入と実施は以下の点で『勧告』に抵触していると結論する。
 
(a)「勧告」が予定している教員団体との十分な協議の過程を欠いていた。
(b)重大な影響をもたらす主観的評価が行われることが明らかである。
(c)教員は行われた評価の詳細とその根拠を知る権利を与えられていない。
(d)教員評価の過程に公開性と透明性が欠如していること、また評価の基準と実施方法に関してはともかく、評価自体に関する審査または不服申し立ての明確な権利がまったく存在しないことは明らかである。」(31項)
 
(4)総括として、次のように、まとめています。
 「共同専門家委員会は、事実に関する争いが解決されていない現時点では、詳細にわたる事項に関してこれ以上言及するのは不適切であると判断する。繰り返しになるが、いずれにせよ善意と適切な対話をもって、主要な「勧告」不遵守の問題が解決されるならば、他の点についての争いも緩和され、全教と関係する行政機関との関係の残念な悪化と思われる問題も回復されうるであろうというのが共同専門家委員会の意見である。このことに関して、文部科学省と関係する教員団体は、相互に受け入れることのできる結論に到達するためにILO及びユネスコから専門的な助言を求めることが有益であることを考慮されたい」(32項)
 
(5)さらに付言すれば、全教は、『CEARTレポート』が「適切な事実調査団の派遣」(7項)「専門的な助言」(32項)「情報の提供」(33項)などに言及していることに留意するものです。
 
3.文科省が9月12日に公表した「指導力不足教員等の人事管理に関する各都道府県・指定都市教育委員会の取組状況」をよれば、その定義及び認定手続きなどが各教育委員会においてバラバラで、マスコミも「客観性に課題も」(朝日)と指摘しています。さらに文科省は「指導力不足教員」制度の導入に続き、2006年度からの公務員制度「改革」に歩調を合わせ、新たな教員評価、能力・実績に応じた給与制度を構築する作業を急いでいます。すでに今年度から、「教員の評価に関する調査研究」を全国の都道府県で開始しており、今後、先行した東京都、香川県などに続き、全都道府県で具体化が広がる情勢となっています。
 
 このように、教育における「成績主義」「競争主義」が強化される中で、教員の専門職性を謳った『教員の地位勧告』は、今日もなお生命力を有しており、直面している教育課題を解決する有効な指針となることが、今回の『CEARTレポート』で浮き彫りとなりました。私たちは、日本政府も参加した特別政府間会議で全会一致で採択された『教員の地位勧告』と、全教の「申し立て」に関する『CEARTレポート』は、日本の教職員組合運動の共有財産と考えます。
 
 『教員の地位勧告』は条約ではないので、法的拘束力はありません。ILO・ユネスコの公式パンフは「条約と違って、勧告は、各国が批准したり署名したりすることを条件としていません。しかしながら、ILOとユネスコ加盟各国は、…その条項を熟知していなければならず、ILOとユネスコにより、それぞれの国での適用が求められています。ですから、勧告は、強い説得的効果をもっています」と述べています。文部科学省も先の見解において、指導力不足教員問題、新しい教員の評価制度の双方について、「改善を可能な限り公正かつ透明性の高いものにするため、あらゆる努力を惜しまないものであることを表明したい」としています。 
 
 これを契機に文部科学省、各教育委員会は、新しい制度を導入する時はもちろんのこと、すでに強行された指導力不足教員や新教員評価の制度について、全教、当該教職員組合と誠実で意味のある協議・交渉を行い、『教員の地位勧告』と『CEARTレポート』を尺度として、制度と運用上の問題点を明らかにし、その改善を図り、弊害の除去に直ちにとりくむべきです。高知県や東京都の教育委員会は、「指導力不足教員」の判定委員名の情報公開を拒んでいましたが、「公文書開示審査会」の答申を受けて開示を余儀なくされるなど是正が図られる例も生まれています。
 
 全教は、摘発・排除をねらいとした「指導力不足」教員政策、行政による教員評価の押し付けやその賃金・処遇への反映に反対する立場を堅持すると同時に、『教員の地位勧告』が求める恣意性と主観性を排除する適正手続(本人開示、自己弁明、異議申立権など)を保障させ、制度と運用における公平性、納得性、透明性を確保するため、引き続き力を尽くすものです。そして、子どもと教育をめぐる困難を打開するため、全教職員の英知を集め、教育基本法を生かし、「子ども参加・父母共同の学校づくり」を推進する決意です。
 
以 上





▲ページトップへ




〒102-0084 東京都千代田区二番町12-1 全国教育文化会館3階 TEL: FAX:
Copyright(c)2005 全日本教職員組合 All rights reserved.