【見解】2006/01/16
『2006年度政府・文部科学省予算(案)に対する見解』
2006年 1月16日 全日本教職員組合中央執行委員会
政府は、昨年12月24日、2006年度政府予算案を決定しました。総額は、前年度当初予算比3.0%減の、79兆6860億円です。このうち一般歳出は、前年度比1.9%減の46兆3660億円です。歳入に占める国債費は、29兆9730億円にのぼり「国債依存度」は、37.6%に達しています。その結果、06年度末の国債残高は541兆円と、過去最高を更新する見込みで、国民一人当たり424万円の借金を背負う額となり、財政危機的な状況が継続しています。
こうした深刻な財政状況にもかかわらず、大型公共事業の関西国際空港2期事業(114億円)、諫早湾干拓事業(55億円)等を予算化しています。また、軍事費については、アメリカの軍事戦略に追随し、自衛隊の「海外派兵型軍隊」への転換をすすめるため、アメリカが導入を推進している「ミサイル防衛(MD)システム整備費」を201億円増の1399億円を予算化し、内閣官房予算に含まれる情報収集衛星(軍事偵察衛星)関連費を加えると、約5兆円に達します。さらに、在日米軍駐留経費負担の「おもいやり予算」に2326億円予算化しています。
その一方で、定率減税の全廃や医療制度の改悪など、国民に新たな負担と犠牲を押し付けるものとなっています。小泉内閣は、「サラリーマン減税は行わない」という与党の選挙公約を投げ捨て、07年度には定率減税を全廃し、年間3.3兆円もの増税を押し付けようとしています。その一方で、空前の利益をあげている大企業への法人税減税を恒久化しています。社会保障分野では、国庫負担や大企業の保険料負担を軽減することをねらって、病気の重い人や高齢者に重い負担をかぶせる「医療制度改革」をおこなおうとしています。
文科省予算は一般会計で前年度当初予算比8.0%減の5兆2671億円で、うち教育予算は、義務教育国庫負担率の2分の1から3分の1への切り下げで8500億円が削減されたため、前年度比4702億円、10.7%の大幅削減の3兆9359億円で、他の省庁予算と比べても、最大の削減となっています。
文科省予算の特徴は、第1に、国の責任による30人学級実施、私学助成の大幅増額などの父母・国民、教職員のねがいを切り捨てていることです。公務員削減の政府方針に従い、新たな第8次教職員定数改善は行わず、児童生徒の減少にともなう自然減の1000人の削減を行う方針です。教職員数の実質的な改善を行わないのは、定数改善計画が始まった1959年以来初めてです。なお、「今日的教育課題である特別支援教育、食育の充実を行うため」、329人の「合理化減」を立てた上で、329人の改善を行うとしています。教職員を増やさずに、内部の調整でそれらを充実させようとすることは、新たな矛盾を生むだけです。
さらに、私学助成金については、文科省概算要求では前年度より50億円増の1083億5000万円を要求しましたが、財務省原案では逆に前年度より約52億円削減が内示されました。しかし、12月21日の財務省前要求行動をはじめとしたとりくみと、復活交渉で前年度より5億円の増額を実現させましたが、生徒・父母・教職員の願いとは遠い予算額となりました。
第2の特徴は、憲法・教育基本法にもとづく教育を、制度、内容、条件を含め、その全体にわたって根底からゆがめる「義務教育の構造改革」を推進するため、子どもどうし、教職員どうしを一段と競争させ、管理統制を強化するとともに、教育に格差をつけ、安上がりな施策・事業をすすめるものとなっていることです。競争をあおり、子どもたちの成長と教育をゆがめる「全国的な学力調査」を2007年度から実施するための導入経費等として、29億円を予算化しています。また、一部のエリートづくりのための「学力向上アクションプラン」の推進のため、スーパーサイエンスハイスクールやスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールを拡大するとともに、「小学校英語活動地域サポート事業」も30地域で実施する計画です。さらに、財界からの要望に応え、「若者の自立支援」として、「キャリア実践プロジェクト」を3100校で実施しようとしています。
また、「学校評価システムの構築による義務教育の質の保証」として、学校での「客観的な評価の促進」にむけて、全都道府県において学校評価のモデル事業を行うため、5億8030万円を新規に予算化しています。さらに、、「現職教員の研修のより効果的な実施に資するための教員研修評価・改善システムを開発し提供する」ため、「教員研修評価・改善システム開発事業」を新たに行う計画で、いっそう教職員の管理統制を強化しようとしています。
第3の特徴は、国民的な関心である「安全・安心な学校づくり」に対する対応が不十分であることです。「学校の耐震化の推進等」について、概算要求では前年度より48億8000万円増を要求しましたが、政府・与党の合意による「三位一体の改革」により、前年度より182億円削減され、1039億円が予算化されたのみでした。公立学校施設は地震等の非常災害時に子どもたちの生命を守るとともに、地域住民の応急避難場所としての役割も果たすことから、その安全性の確保は不可欠ですが、それさえも削減しました。また、「登下校時に児童生徒に対する事件が続発したことを受け」、警察OBを活用したスクールガードの養成・研修等の「地域ぐるみの学校安全体制整備推進事業」や、「携帯電話を活用した子どもの安全対策に関する研究事業」など、「子ども安心プロジェクトの新設」として約26億円を盛り込みました。さらに、アスベスト対策では、05年度一般会計補正予算で745億円(文化省交渉で回答)を予算化しました。しかし、「子ども安心プロジェクト」も、アスベスト対策についても、深刻な実態と全国の学校数を考えれば、きわめて不十分な予算額であり、抜本的な対応が求められます。
第4の特徴に、これらの問題を含んだ予算案ですが、一方で全国3000万署名運動をはじめ、私たちのとりくみを反映させた内容があります。私学に通う小・中・高校生が、授業料納付が困難となった場合に都道府県がおこなう授業料軽減措置の経費の2分の1を国が補助する事業で、補助の対象が生活保護世帯の子どもにも拡大され、予算額も前年度比2倍以上の6億3800万円が予算化されました。これまでは「時限措置」として行われて来ましたが、来年度予算で恒久化させることができました。私学をはじめとする生徒・父母・教職員の運動の大きな成果です。
小泉内閣は、今月召集の通常国会に「小さくて効率的な政府への道筋を確かなものにするため」、「行政改革推進法案」を提出する予定です。その中で、義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(人材確保法)の廃止を含めた見直しとともに、「児童生徒の減少に伴う自然減を上回る純減」の実施を決めようとしています。すでに、今回の予算編成での第8次定数改善計画の策定中止は、地方自治体での少人数学級の拡充の見送りなど、各地で影響を与えだしています。「純減」方と国庫負担削減は、各自治体独自にすすめられている少人数学級の流れを後退させるばかりか、教育条件を大きく逆戻りさせることになります。今、政府に求められていることは憲法・教育基本法を守り、軍事費を削り、「無駄な」公共事業をやめ、無謀な経済・財政運営のつけを国民生活にしわ寄せする予算編成を改め、教育予算では、国の責任による30人学級の実現、私学助成の大幅増額、「安全・安心な学校づくり」のための予算の増額など、子どもと教育を守り、発展させる予算に組み替えることです。全教は、憲法・教育基本法を生かし、平和を守り、豊かなくらしとゆきとどいた教育を求める世論とかたく結合し、国民不在の予算から、国民主人公の予算への組み替えを求め、引き続きとりくみを強めていきます。
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