【見解】2007/03/13
『中教審「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」答申について』
2007年 3月13日 全日本教職員組合中央執行委員会
中教審は、2007年3月10日、「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」(答申)(以下、「答申」)をまとめ、伊吹文部科学大臣に提出しました。
「答申」は、改悪教育基本法の具体化として、学校教育法、教育職員免許法、地教行法を改悪するものであり、私たちは、中教審のヒアリングの段階から、重大な問題点を指摘し、法案化を行わないよう求めてきました。10日に「答申」が出された段階で、あらためて見解を明らかにするものです。
第1に学校教育法にかかわる大きな問題の第1は、改悪教育基本法第2条に「国を愛する態度」などを入れ込んだことを根拠に、学校種ごとの目的、目標にこれを入れ込もうとしていることです。改悪教育基本法についての国会審議でも、「答申」が根拠とする第2条が、憲法第19条が保障する思想、良心、内心の自由を侵害する重大問題を持つものあることが浮き彫りにされ、いわゆる「愛国心通知表」をめぐる国会での政府答弁でも、「国を愛する態度」を子どもと国民に押しつけるべきではない、とされたものです。「答申」が改悪教育基本法に加えて学校教育法に「国を愛する態度」を規定しようとしていることは、「愛国心」押しつけに二重の法律のお墨付きを与え、とりわけ義務教育をねらい打ちに、「愛国心」押しつけを強めようとするものであり、憲法違反に憲法違反を重ねるものです。学校教育法に「国を愛する態度」を位置づけることは憲法に照らし、絶対におこなってはならないことです。
私たちは、ヒアリングでもこの問題を厳しく指摘し、明確に反対の態度を明らかにするとともに、中教審に対して、憲法との整合性についての真剣な検討と吟味、および国会答弁もふまえた検討を強く求めたところですが、「答申」を見る限り、その後の審議において、まじめな検討が行われたとは到底思えません。したがって、重大な憲法違反を是認する「答申」をもとに法案化することは断じて行うべきではないことを指摘するものです。
また、幼稚園の目標にまで「規範意識」を入れ込もうとしていることも大きな問題です。これは、幼児期の段階から、子どもたちを「規範意識」でしばりつけようとするものであり、子どもの発達を踏まえない「答申」であることもあわせて指摘するものです。
大きな問題の第2は、副校長・主幹・指導教諭という新たな職を第28条に位置づけることです。これは、新たな上意下達の管理体制をつくって、教職員が力をあわせた教育活動を困難にするものであり、教育のいとなみにふさわしい、民主的な学校運営組織に真っ向から背くものです。
私たちはヒアリングで、「子どもの成長・発達に直接かかわる教育現場では、教職員が自主的で闊達な教育活動をおこなうことが何よりも求められます。これは、憲法第13条、19条、23条、26条が教育に要請する基本原則であることは、旭川学テ最高裁判決からも明らかです。これに上意下達で指示、命令による学校運営体制をつくることは、本来なじみません」と、教育の条理にのっとった道理ある意見表明を行いましたが、このことについても真剣な検討が行われた形跡はみられません。
なお、「答申」では「留意事項」として、「新たな職の設置の状況に応じて教職員定数などの条件整備を図ること」と述べています。このことは、私たちがヒアリングで「教職員を減らして、そのうえに授業を持たない職や授業を持つ時間が極端に少なくなる職を新たにつくれば、教職員はますます過重負担となり、多忙化に拍車をかけることは、火を見るよりも明らかです」と述べたことの一定の反映ではあります。しかし、そのことによって、新たな職の設置の本質は変わらないことを指摘するものです。
第2に、教免法改悪では、「答申」は、教員免許更新制を導入するとしています。このねらいは、ヒアリングで述べたとおり、時の政府のいいなりにならない教員の教壇からの排除を目的とするものです。「答申」は骨子案に比べ、「修了したものは」「免許状の有効期間を更新する」として、あたかも講習さえ受ければ免許状が更新されるかのような表現に変更されていますが、「留意点」においては、「講習内容が…確実に身に付いたかを適切に判定するための明確な基準…が必要」と述べており、制度設計と運用によって、教員を排除するという本質は、まったくかわりません。このような制度は絶対に導入すべきではないという見解をあらためて表明するものです。
また、「答申」は、教免法改悪と一体に教育公務員特例法を改悪して、「指導が不適切な教員の人事管理の厳格化」を述べていますが、これは、教免法改悪と組み合わせて、「指導不適切」の名目で、10年をまたずに行政権力に忠実でない教員の免許をとりあげ、失職させるシステムづくりともいえるものであり、断じて許せません。こうした脅しの体制づくりは、教員を萎縮させ、子どもたちのためにがんばろうとする教員の意欲をそぎ、ひいては教員志望者を激減させる大問題をもつものであることをあらためて指摘するものです。
第3に、地教行法については、地方教育行政に対する国の関与を強める問題が、大きな論点となっていましたが、「答申」では、地方教育委員会に対する国の指示については、「児童生徒の生命や身体の保護のため緊急の必要がある場合や、憲法に規定された教育を受ける権利が侵害され、教育を受けさせる義務が果たされていない場合など極めて限定された場合」と述べています。しかも、そのうえで、異例の両論併記となっています。これは、中教審に対し、地方教育行政の自主性を蹂躙する内容について、私たちの意見表明をはじめ、立場を超えて多くの反対意見が寄せられたことの反映です。
一般に、これだけ意見がまとまらない場合は、答申を見送るのが当然であるにもかかわらず、無理やり答申したことはきわめて異常事態といわなければなりません。それは、憲法改悪のための改憲手続法と「教育再生」を「安倍らしさ」として打ち出し、自らの支持率浮揚策とし、それによって選挙を有利にたたかおうという、子どもと教育の問題を党利党略に利用しようとする安倍内閣の圧力以外の何ものでもありません。子どもと教育の問題を断じて政争の具にしてはなりません。
地教行法にかかわるこの矛盾に改悪教育基本法の本質があらわれています「答申」は、「教育は、子どもたちや地域住民に身近な学校や市町村が…主体的な活動を展開していくことが重要である」と述べています。この文脈に限って言えば、教育は地方自治という憲法的要請、および教育の条理に照らして当然の正しい主張です。しかし、そう述べた後に、改悪教育基本法第16条第1項で「教育は不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより」を持ち出して、「地方分権の理念を尊重しつつ、こうした改正教育基本法の精神に基づき」国の関与を強めると述べてしているのです。
それは、改悪教育基本法が、本来行ってはならない教育への国家の関与を容認し、教育への国家権力の無制限のコントロールをねらうものであり、すなわちそれは、教育の条理にそむくものであることから、こうした矛盾した結論が導き出されざるをえないことを示すものです。このことは、改悪教育基本法が、いかに憲法の要請に背き、教育の条理にそむくものであるかを証明するものといえます。
このように、「答申」が述べる教育3法改悪は、その表題が示すとおり、改悪教育基本法の具体化そのものといえます。改悪教育基本法が重大な憲法違反をはらむ法律であるがゆえに、これを具体化しようとすればするほど、憲法違反を重ねなければならなくなります。
私たちは、中教審が答申した教育改悪3法案に反対の態度を明らかにするとともに、あらためて憲法と教育のいとなみに立脚して教育を前進させるとりくみに全力をあげることを表明するものです。
最後に、中教審審議の異常さについて述べたいと思います。中教審の審議は、先に法案提出ありき、で異常なスピードですすめられてきました。土曜日や日曜日を返上しての会議、通常は30日程度かけるパブリックコメントもわずか1週間、ヒアリングも分科会に分かれての同時進行でおこなうなど異例づくめという状態で、審議がすすめられました。新聞各紙は「中教審�猝埒貝瓠廖複卸遑横尭�付「朝日」)、「子どもの未来30時間」(3月11日付「毎日」)と報道するほどです。3月11日付毎日新聞は、「論議はまだ尽くされていない」という社説を掲げました。今回の中教審の審議のやり方は、日本の教育と子どもの未来にかかわる重大問題にまったくふさわしくなく、きわめて危険でさえあります。私たちは、こうした審議のあり方を厳しく批判するものです。
伊吹文部科学大臣は、上記「答申」を3月12日午前、安倍首相に報告、安倍首相は、同日夕刻「教育についてはいろいろあるが、最終的には政治判断をおこなった」として、地教行法について国の関与を強める方向を提起し、今国会提出に向けて法案作成作業を急がせたと報道されており、今国会への法案提出は必至という状況です。
私たちは、「答申」にそった学校教育法、教育職員免許法、地教行法の改悪は、子どもと教育をいっそう困難にするものであり、断固反対の立場を明らかにするものです。私たちは、安倍内閣と文部科学省に対し、この国会での法案提出の断念を求めつつ、仮に法案が出された場合は、廃案を求めて、父母・国民のみなさんとともに全力をあげてたたかうことを表明します。
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