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【談話】2008/10/30 
『来日調査を踏まえたILO・ユネスコ勧告について』

2008年10月30日 全日本教職員組合 書記長 東森 英男

1.ILO・ユネスコ『教員の地位勧告』の適用を監視・促進する機構である「共同専門家委員会」(以下、CEART)は、4月末に行われた来日調査の調査団報告書と、実情調査を踏まえた勧告を含む中間報告書を、10月29日に公表しました。実情調査を踏まえたCEART報告書は、11月6日から開催されるILO理事会、そしてユネスコ執行委員会に提出され承認されることになっています。
 調査団は、「指導不適切教員」政策や新しい教職員評価制度、および教職員組合との交渉ルールと実際などを、申し立て(アリゲーション)した全教だけでなく他の教職員組合、そして文部科学省・教育委員会、専門家などからも聴取しました。CEARTの調査団派遣は世界に前例がなく、「競争と管理」の教育が強まるもとで、身分を不安定にされている教職員の期待は大きいものがありました。また、政府が、公務員労働者に協約締結権を付与するかどうか、公務員の労働基本権のあり方を検討している最中でもあり、調査団派遣は各界から注目されていました。
 今回のCEART勧告は、文科省・教育委員会から主張・反論を聴取した上で、これまでの勧告内容を変更しなかっただけでなく、『教員の地位勧告』の遵守をこれまで以上に力強く文科省・教育委員会に勧告しており、私たちの期待に応える画期的な内容になっています。
 
2.CEARTはこれまでに3回(03年12月、06年1月、07年5月)日本における「指導不適切教員」政策や新しい教職員評価制度の導入において、『教員の地位勧告』が遵守されていないとして、勧告の諸規定に合致するよう求めてきました。しかし改善が部分的初歩的で進捗がはかばかしくないとして調査団の派遣に踏み切ったのであり、単に実情を調査だけでなく、すでに勧告したにもかかわらず改善が進まないのはなぜか、これらの障害はどこにあるのかを把握し、すべての当事者に受け入れられる「問題の解決のための提案」を行うことを使命としていました。
 今回のCEART勧告は、4月の実情調査で入手した豊富な情報をもとに、この間の文科省・教育委員会におけるCEART勧告を受けた「指導不適切教員」ガイドラインなどの措置を評価しつつ、踏み込んだ改善方向を示しました。さらに改善の障害を除去するために、文科省・教育委員会が、教職員組合を「教育政策の決定に関与すべき勢力として認め」、また教職員評価制度などを「管理運営事項」扱いとせず(42項)、有意義な協議・交渉を行うことの重要性を指摘し、法改正を含め(43項)教職員組合政策の抜本的な転換を求めました。そして、勧告の対象は日本政府・文科省に対するものであり、都道府県教育委員会などに対するものではないとする一部教育委員会の見解を斥け地方教育行政のあり方にも言及するものとなりました(33項、37項、40項)。
 
3.CEART勧告は、次のように、具体的な改善を明確に提起しています。
(1)「指導不適切」教員評価制度については、「制度への非好意的な見方を受けとめ、措置を講じるべきであると勧告」(33項)、「見直しと修正は、同僚性と専門職的共同という周知の日本的特質に依拠」「もっと学校を基礎にした制度と指導助言に重きが置くことが可能」(34項)などと言及しています。また、「判定する客観的基準と適正手続きを保障する制度が本報告の知見に即して強化されるべきであると勧告する。その意味は認定申請がなされる前に自ら意見を述べ、代理人を立てる権利が保障されるべきこと、また不服申し立て制度の公平性と実効性が保障されなくてはならないということである。」(35項)と述べています。そして、「この見直しと修正の過程においては、…教員と教員団体が十全かつ効果的な対話の過程を通じて積極的に貢献する機会が保障されるべきである。」(36項)としています。
 
(2)「教員の給与と意欲とに関係するようになっている教員評価制度を根本的に吟味すべきであると勧告」(37項)、そして、その重要な視点として、「昇給に関する決定は、効果的なチームワークにマイナスとなる葛藤を生み出しかねない、さらに大きな給与格差はつけないように行う。」「主観的、表面的な評価を少なくするため、評価者にその職務遂行のための研修と時間をより多く与える。」「私的な事項を対象としてはならない」「教員団体の代表が参加する不服(異議)申し立て制度に関する共通の合意を追求すること。さらに、その制度はすべての教員に完全に周知されなければならない。上記の教員の指導力に関する勧告に即して、教育当局は個人の業績評価制度の持つ否定的側面を避けるために、…共同専門家委員会は、…支援を行う準備がある。」(38項)などをあげています。さらに、「雇用当局が昇給とボーナスに関わる業績評価制度の今後の設計と実施をすべての雇用する教員を代表するすべての教員団体との誠実な協議と合意の過程として、すぐに措置を講じるべきであると勧告する。」(39項)と述べています。
 
(3)「交渉と協議」に関して、「教育団体との交渉、ないし問題によっては協議に対する姿勢を1966年勧告の規定に即して再考するべきであると勧告」、「教員の判定基準、判定のための制度、個々の教員に対する適正手続きの保障、そして業績ないし成果評価制度に関する意見聴取は、誠実な協議の対象でなくてはならない。同様に、特に業績評価の結果として、教員の給与と労働条件に影響を及ぼす事項については、最終的には合意に至る交渉の対象でなくてはならない。」と強調しています。さらに、「教職にとって関連ある問題に応じて協議と交渉のより制度化された仕組みを構築する措置が講じられるべきであると勧告」(41項)しています。
 
4.ILO・ユネスコ『教員の地位勧告』は、「教職における雇用の安定と身分保障は、教員の利益にとっても不可欠であることはいうまでもなく、教育の利益のためにも不可欠なもの」(45項)と謳っています。しかしながら、�犂浜�と競争�瓩砲茲訖融�管理、劣悪な定数・教育条件のもと、慢性的な長時間過密労働と精神疾患の急増、「指導不適切」教員政策や教員免許更新制など教員の「地位」低下と不安定化が深刻化しています。「子どもの最善の利益が第1次的に考慮される」教育が行われてきたのであれば、教員の地位はその目的に沿って尊重されるのではないでしょうか。
 全教は、「CEART勧告は、日本の教職員組合運動の共有の財産」との見解を表明してきました。教員の地位低下や報奨給制度は新自由主義的な教育政策を採用している各国の共通した傾向であり、今回のCEART勧告が世界に発信されれば、その攻撃とたたかっている諸外国の教職員組合の「指針」ともなると信じるものです。
 『教員の地位勧告』・CEART勧告は、「強い説得的効果」と「倫理的な権威」を持っているとILO・ユネスコは説明しています。勧告は各国で遵守されることは当然とされるべきものですが、活かすのは私たちの運動です。
 全教は、『教員の地位勧告』、CEART勧告の学習・普及をさらに強めるとともに、文科省・教育委員会との交渉・協議を促進し、競争的管理的な教職員賃金・人事政策の転換をめざして引き続き奮闘するものです。さらに今回の勧告は、教職員組合と文科省・教育委員会との有意義な交渉を実現するための関連法律の改正にも言及しており、政府で検討されている公務員の労働基本権回復に向け、とりくみを強化するものです。
 
 
以上





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