月平均80時間を超える時間外労働の実態
いのちと健康守り人間らしく働くために
教職員の生活・勤務・健康実態調査報告

 02年度に入り、現職死亡が京都では6人、東京の障害児学校では3人、広島では修学旅行の説明会の時倒れて亡くなるなど全国各地から痛ましいニュースが届けられています。
 いま、教職員の働き方の見直しや労働条件の改善、労働安全衛生体制の確立と活動の前進など、教職員のいのちと健康を守るとりくみが切実にもとめられています。全教・いのちと健康専門委員会は、教職員の多忙と健康の関係、その問題点と課題を明らかにし、全国で運動を強化していくために、2002年5月27日(月)~6月2日(日)の1週間を調査期間として「教職員の生活と勤務・健康調査」を実施し、1240人の集約・分析をおこないました。
 今回の調査では、教職員の健康が極めて憂慮すべき事態にあり、過労死の危険を感じつつも、懸命に仕事をしている教職員像が浮彫りになっています。学校内残業は他産業の労働者と比べ極端に長くはないが、(時間外労働が月80時間を超える男性社員は過去最高で21・4%、02年総務省調査)、持ち帰り仕事や休日の仕事時間が多く、慢性疲労が常態化し、過労死不安を抱えながら教育活動をすすめている実態が明らかになりました。
 いま、日本の労働者は、健康破壊がすすみ、過労死や過労自殺の危険に直面するなど、深刻な状況にあります。しかし、他産業の労働者よりも、また、10年前の全教調査よりも、さらに教職員の健康破壊や労働条件の悪化がすすんでいることが今度の調査で示されました。

(1)5月、1ヵ月の教職員の平均超勤時間
 5月の1ヵ月の教職員(教員、養護教員、事務職員)の平均超勤時間は80時間10分。なかでも、中学校教員が最も多く、99時間48分で、うち学校内残業が2時間27分(全体1時間53分)、自宅持ち帰り仕事を含む学校外残業が1時間19分(全体1時間8分)、土曜日や日曜・休日の出勤が20時間56分(全体16時間44分)となっています。


 職種や学校種別で見ると、教員では、小学校が83時間26分、高校は86時間43分、障害児学校では78時間14分、養護教員は63時間54分、事務職員は36時間17分となっています。特に、土・日の休日に仕事をした人の6割~7割が翌日に疲労を「よく・いつも」持ち越し、健康状況も「非常に、やや」不調で、土・日の両日を仕事した人の半数がストレスを「強く」感じ、過労死が「現実不安」となっています。
 いま、教職員の勤務実態は、「発症前80時間~100時間の時間外勤務」という過労死ラインぎりぎりで働くことが平均値となっています。すでに現職死亡が多発しており、この事態を打開することが緊急に求められます。

(2)休憩時間が確保されない過密・連続勤務で、身体疲労を感じながら懸命に仕事をしている教職員
 教育行政からの勤務の割り振りだけが押しつけられ、実質、休憩時間が「規定通りに取れる」は、全体で5・4%。特に、養護教員や学級担任をしている教員は3%程度しか取れず、学校では「休憩時間なし」の違法状態にあります。
 休憩時間確保と健康状況を見ると、休憩時間が「規定通り取れている」人の4割は「一晩で疲労が回復する」と答え、逆に「全く取れない」人は、疲労回復状況が悪く、「ストレス」「過労死不安」「学校辞めたい」などの割合が高くなっています。
 また、校内残業が約2時間、朝8時半から午後6時半まで休みなく10時間以上も働き、自宅に帰ってからも1時間程度の仕事をしているのが実態です。こうした、長時間過密労働が睡眠時間を圧迫し、平均睡眠時間は6時間11分(女性は6時間5分)で慢性的な睡眠不足となっています。他産業の労働者と比較した蓄積疲労徴候調査でも、教職員は慢性疲労状態にありながら、労働意欲の低下は少なく、こうしたことから、身体疲労を感じながら懸命に仕事をしている教職員像が見えてきます。


「もっと教材研究がしたい」「子どもとゆっくりかかわりたい」
教育条件整備を1日も早く

(3)教職員のメンタルヘルスと過労死の不安
 疲労回復状況では「一晩で疲労が回復する」が僅か12%(女性は8・4%)で、ほとんどの教職員が翌日に疲労を持ち越しています。なかでも、女性教職員の健康悪化が大きな問題として浮彫りになっています。
 疲労を回復できず、「健康状態の不調」(男性41%、女性47%)や「過労死不安」(男性54%、女性56%)も大きく、また「3ヵ月以上の通院・入院をした」(男性21%、女性26%)、「学校を辞めたい」(男性47%、女性60%)に連動しています。
 特に、過労死不安は教員に多く、約6割が過労死不安を抱きながら働いています。そのような職場で、子どもたちを人間らしく育てる教育ができるでしょうか。
 3ヵ月以上の通院・入院経験者は過去1年間で5人に1人となっています。
 男女ともに第1位は高血圧(通院・入院経験者比で男性23%、女性19%)。しかし、頭痛、自律神経・神経症・不眠症・うつ病など精神疾患の合計を見ると、男性22%、女性34%となり、女性では疾病の第1位になっています。また、50歳代の男性では、過労死につながる高血圧や虚血性心疾患が他産業労働者の2倍もあり、学校職場のメンタルヘルス対策や長時間労働による健康状態の悪化を改善することが急務です。

(4)時間があればとりくみたいこと
 教員は、時間があれば「もっと教材研究がしたい」「授業内容の工夫もしたい」「もっとゆったりじっくり実践にとりくみたい」「子どもとゆっくりかかわりたい」と願っています。「教師にとって一番時間を費やすことは授業準備ではないか」(自由記載)などのように、教員は、「授業」や「教材研究」「学力補充」などに積極的にかかわり、養護教員は「校務分掌」「生徒指導」、事務職員は「校務分掌」「事務的活動」となっています。どの子にも基礎学力をつけたいと放課後、休日の補習などに腐心している姿が浮かびます。一方、校長権限の強化や成績主義評価、職員会議の補助機関化などの管理強化のもとで、「事務的活動」や「会議」などが負担となっています。「部活指導」についてはやりがいでもあり、負担にもなっていることが明らかになります。
 子どもや同僚との人間関係は7割~8割が良好と答えていますが、管理職との関係は5割程度で、悩みの相談相手としても、0・6%と低く、管理職のあり方が問われています。また、教職員の多忙や持ち帰り仕事などの長時間労働が、家庭へのしわ寄せとなっている面が見られます。

~アンケートに寄せられた自由記述から~
【大阪、男性、40代、高校(全)、教諭】
 ストレスのはけ口を家族に向けていたのでしょう。子どもが人格破綻をきたしてやっとあらためなければならないと気づきました。けれどもあまりに遅すぎました。一気に人生のはり合いをなくして…(中略)。責務を果たし終えたら短く燃え尽きることができたらと願うばかりです。
【広島、女性、30代、小学校、教諭】
 年度はじめに忙しさが集中して、健康と子どもたちが犠牲にされたように思います。くたくたに疲れて気力だけでのりきった感じ。授業だけでなく、朝、給食、そうじ、帰りの会など、休む間もなく笑顔でがんばっているのに、このがんばりは誰に理解されているのでしょうか。
【東京、女性、40代、小学校、養護教諭】
 児童も教職員も元気で過ごせる学校が、いま、崩れていくような不安を感じます。週休2日制になり、休み明けの児童が体の不調を訴える。平日遅くまで仕事で残る教職員(休日出勤も)。子どもは笑顔!教職員は元気!を目指してがんばりたいものです。

今後の課題
1.授業持ち持間の軽減と30人以下学級の実現
 抜本的には、学習指導要領の見直し、30人以下学級の実現や授業の持ち時間の最低基準を設け(当面、授業持ち時間の軽減)、本来の学校完全5日制の実施などが求められます。

2.健康対策の改善-
「過重労働による健康障害防止のための総合対策」の具体化

 長時間・過密労働の是正、休憩時間の確保、休日出勤の代休措置の確保、有給休暇の取得、長時間通勤の是正など労働時間を中心とした健康対策の改善がはかられなければなりません。特に、月45時間を超える超過勤務の是正と休憩時間の確保が実質的に可能となる教職員定数増を求め、身体と心を休める時間的余裕を職場でとれるようにさせることが必至となっています。

3.教職員の労働条件は子どもの教育条件
 「教職員の勤務時間が守られ、いのちと健康が大切にされること」と、「子どもと父母の願いにもとづいた学校づくりと教育を充実させること」は両立させるべき課題であることを、あらためて職場全体で討議し、すべての職場・教職員の合意に広げることが重要です。

4.職場の忙しさを減らすために何が出来るか、職場討議を
 職場の管理者に勤務時間の始業・終業の確認、記録を要求し、「週40時間、原則として時間外勤務なし」の勤務時間管理を追求させることや、この原則を超える勤務が必要となっている学校の現実、教育のあり方を見直すとともに、「やるべきこと、やってはいけないこと」を明らかにするとりくみが急がれています。

5.すべての学校に、安全衛生体制の確立を
 安全と健康を守るための学校に安全衛生活動の定着と、安全衛生委員会の確立をはじめとした安全衛生体制の充実、とりわけ、快適職場環境の形成がはかられることが、極めて重要であり、すべての学校に安全衛生体制を確立することが急務です。

 こうしたとりくみは、教職員の合意のもとに、教職員の勤務問題や健康問題の現状を保護者や地域住民にも明らかにし、理解・協力を得て、ともに創る学校づくり運動とともに、すすめることが重要です。そのための教職員組合の果たす役割は大きいといわなければなりません。また、こうした課題についての政策と方針を具体化する検討と運動が求められます。